最新記事
サイエンス

サルの細胞を持つブタが中国で誕生し、数日間、生存していたことが明らかに

2019年12月13日(金)18時10分
松岡由希子

倫理上の観点からヒトと似たサルを用いたという...... Credit: Tang Hai

<中国の研究所が「カニクイザルとブタとのキメラを誕生させることができた」との研究論文を発表した......>

サルの細胞を宿したブタが中国で誕生していた。中国科学院動物研究所傘下の幹細胞与生殖生物学国家重点研究室(SRLab)の研究チームは、2019年11月28日、学術雑誌「プロテイン・アンド・セル」で、「カニクイザルの胚性幹細胞(ES細胞)を用いてカニクイザルとブタとのキメラを誕生させることができた」との研究論文を発表した。

体外受精させたブタの胚盤胞4359個にカニクイザルの胚性幹細胞を注入し、これを雌ブタに移植したところ、子ブタ10匹が生まれ、うち2匹が同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている「キメラ」であることが確認された。

2017年には、ヒトの細胞を持つブタが誕生

この研究は、異種間器官形成によってヒトの移植用臓器をブタやヒツジなどの大型動物の体内で培養させるという研究テーマのもとで行われたものだ。

2017年1月には「ヒトの細胞を持つブタを誕生させた」との米ソーク研究所の研究成果が明らかにされているが、この研究チームでは、倫理上の観点から、ヒトとよく似たカニクイザルを用いることにしたという。

研究チームは、ブタの体内でカニクイザルの細胞を追跡するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)を生成するように遺伝子改変したカニクイザルの細胞を培養。この遺伝子改変細胞から胚性幹細胞を取り出し、受精から5日後のブタの胚盤胞に注入した。

キメラとして誕生したブタの心臓、肝臓、肺、膵臓、皮膚、子宮では、カニクイザルの細胞が確認されたが、キメラ率は0.001から0.0001と低かった。

大型動物でヒトの臓器を培養するための道をひらく......

誕生した子ブタはすべて1週間以内に死亡した。研究論文の共同著者であるハイ・タン氏は、その原因について「キメラとの関連性は低く、ブタには難しいとされる体外受精が影響しているのではないか」との見方を科学技術専門メディア「ニューサイエンティスト」で語っている。

キメラ率が低く、出生率も低く、誕生した子ブタの生存期間もわずかであったものの、研究チームは、「異種間器官形成のさらなる進化に寄与し、大型動物でヒトの臓器を培養するための道をひらくものである」として、一連の研究成果の意義を強調している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中