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習近平を国賓として招聘すべきではない――尖閣諸島問題

2019年12月13日(金)12時22分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これで、「日中関係が正常な軌道に戻った」のだろうか。

安倍首相は、まるでお呪(まじな)いのように、この言葉を繰り返しているが、これが「正常な日中関係」なのか?

習近平はアメリカの制裁で困り果てて、日本に微笑みかけているだけだ。

このような時にこそ、日本は毅然と構え、「会いたければ、先ずは尖閣問題を解決してからにせよ」と習近平に言わなければならない。

だというのに、こちらから跪いて「私を国賓として読んでください」と頼み(4月26日付コラム<中国に懐柔された二階幹事長――「一帯一路」に呑みこまれる日本>)、今度は習近平を国賓として招聘する。

安倍首相は、かかる国際情勢の中、なぜ習近平を国賓として招聘しなければならないかを、日本国民に、そして世界に説明しなければならない。

そもそも、中国建国の父・毛沢東は「尖閣諸島は沖縄県(中国では当時、琉球群島)に所属するもの」と、明確に宣言している。たとえば、1953年1月8日付の、中国共産党機関紙「人民日報」の記事は、

――琉球群島は、我が国・台湾東北と日本の九州西南の海面上に散在しており、尖閣諸島、先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、大島諸島、吐か喇諸島、大隅諸島等を含む、島嶼から成る。

という定義をした上で、アメリカ帝国主義の占領に対して、琉球人民が抗議し闘争していることを紹介している。そして「沖縄人民よ、頑張れ!」「アメリカ帝国主義に敗けるな!」とエールを送っているのだ(沖縄返還前なので、中国では「琉球」と呼んでいた)。

それを覆すのは中華人民共和国が国連に加盟する時だが、その話をし始めると長くなるので、詳細は拙著『チャイナ・ギャップ』に譲る。

1978年10月にトウ小平が日中平和友好条約批准書の交換で来日した際に「棚上げ」を主張したが、「日本固有の領土」を「棚上げ」することさえ論理的整合性がないのに、ここまで蹂躙されてもなお、「日中関係が正常化した」と言うのは、許されることではない。

日中の間で最も重要なのは、安全保障問題だ。

ピュー・リサーチセンターがこのほど、34カ国の3万8000人以上を対象に、今年5月13日から10月2日にかけて行った対中感情に関する調査結果を発表している。それによれば、中国の軍事力に対して脅威を感じている国のトップは日本だった。「脅威を感じる」が90%もいる。2007年では80%。ここ10年で、脅威は10%も増しているのである。

安倍首相は人気取りのために習近平を国賓として招聘したいと思っているのだとしたら、大間違いだ。

習近平を国賓として招聘することは、日本国民の利益に適ってないのである。

そのことを肝に銘じて、即刻、国賓としての招聘を中止すべきである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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