スーチーはハーグでロヒンギャ虐殺を否定し、ノーベル平和賞を裏切った
Suu Kyi Travels to The Hague to Deny Genocide
ミャンマーのジェノサイドを提訴したのは西アフリカの小国ガンビアで、「イスラム協力機構」に加盟する57カ国がこれを支持している(ガンビアもつい最近、独裁政権が倒されたばかりだ)。
国連人権理事会は既にミャンマーに調査団を派遣し、ロヒンギャに対する行為はジェノサイドに当たるとの見解を発表しているが、ICJの審理には何年もかかる可能性がある。ガンビアは1951年のジェノサイド条約に基づく「暫定措置」として、ミャンマー政府にロヒンギャを守る行動を義務付ける命令を下すようICJに求めた。ICJの強制力は限られているが、ICJが命令を下せば、国連安全保障理事会なり各国政府が制裁を科すなどしてミャンマーに虐殺をやめるよう圧力をかけられる(米政府は12月10日、マグニッキー法に基づきミャンマー軍幹部4人を制裁対象に指定した)。
ICJは通常、国家間の紛争解決に当たるが、過去に1件だけジェノサイドに関する判決を下している。セルビア政府はボスニアでのジェノサイドに直接的な責任はないが、虐殺の阻止に失敗した点で国際法に違反するとした2007年の判決だ。
平和賞は名ばかりか
2016、2017年にロヒンギャ「掃討作戦」が始まってから、70万人超のロヒンギャがバングラデシュに逃れ、その多くは難民キャンプの劣悪な状況下で暮らしている。ミャンマーは難民の帰還計画でバングラデシュと合意したが、大半のロヒンギャは帰還を拒んでいる。「ジェノサイドがまだ続いているのに、帰れるわけがない」と、トゥン・キンは言う。
ICJへの提訴は「ロヒンギャの人々にとって非常に大きな前進だ」と、トゥン・キンは裁判の進行に期待を寄せる。「難民キャンプを何度も訪れて、人々の声を聞いてきたが、誰もが公正な裁きを求めている」
イスラム教徒の排斥では、バングラデシュの隣国インドの動きも気になるところだ。インド下院はイスラム教徒の激しい反対を押し切って、非イスラム系移民に限り、近隣諸国からの移民に市民権を与える法案を可決したばかり。ヒンズー教至上主義の現政権のイスラム教徒排斥は、仏教国ミャンマーのロヒンギャ迫害と重なる部分がある。ミャンマー政府も何世代も前からラカイン州で暮らしてきたロヒンギャをバングラデシュから流入した「不法移民」扱いし、彼らに市民権を与えようとしない。
民主主義国家としての長い歴史を持つインドとつい最近まで軍政下にあったミャンマーを同列には論じられないが、多数派の支持をつかむために、少数派を見捨てたスーチーの選択はインドの現政権と共通している。
ハーグの法廷で彼女が示したのは、ノーベル平和賞を受賞した人権活動家だからといって、人類史上最悪級の犯罪に加担しないとは限らない、という事実だ。
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