最新記事

BOOKS

「私はエリートだから農協に落ち着いたのは忸怩たる思い」団塊ジュニアのしくじり人生

2019年12月2日(月)17時30分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<私たちはどこで「しくじった」のか――。団塊ジュニア・氷河期世代の失敗を同世代が聞き取ったドキュメントから得るべき教訓>

『ドキュメント しくじり世代――団塊ジュニア・氷河期中年15人の失敗白書』(日野百草・著、第三書館)は、自身がその世代にあたる著者が、さまざまな境遇にある15人の同世代から話を聞き取ったドキュメントである。


 私達が団塊ジュニアと呼ばれ、そして後に氷河期世代と呼ばれて、どのくらいの時が経っただろう。
 若い若いと言われ続けた団塊ジュニアは、ついに社会的な区分で言うところの、中高年を迎えてしまった。
 昭和、平成、令和――すっかりおじさん、おばさんである。(3ページ「しくじり世代―いま、中年となって―」より)

言うまでもなく、激動する社会の渦の中で成長してきた世代である。1990年代前半にバブルが崩壊し、1995年1月には阪神淡路大震災が発生し、その2カ月後にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり、1997年には山一證券が破綻し......と、いま振り返ってみてもいろいろあり過ぎた時代だった。

その時期に10代を過ごした彼らが社会に出ると、既に就職氷河期。終身雇用神話の崩壊を眼前に突き付けられた初めての世代である彼らは結果的に、明るい未来を"約束されない"世代として生きていくことを義務付けられたのだった。


 私達は正社員かもしれない、非正規かもしれない、スーパースターとして大金を稼いでいるかもしれないし、いまだにフリーターやニート、引きこもりの境遇にあえいでいるかもしれない。病気で苦しんでいるかもしれないし、心を病んでいるかもしれない。アラフォーとなり、私達団塊ジュニアの格差も明確になりつつある。人によっては、残念ながらもう逆転には時遅し、かもしれない。(中略)私達は、仲間は、どこで「しくじった」のだろうか。(4~5ページ「しくじり世代―いま、中年となって―」より)

エリートサラリーマンからテレビディレクター、バンドマン、劇団員、実家住まいのネトウヨまで、ここに登場する15人は職種も地位も境遇も多種多様だ。当然ながら生き方や考え方もそれぞれ異なっているが、ひとつだけ共通しているのは"しくじり世代"であることだ。

「夢がなければ続かない」「ほんと歴史の過渡期だった」

例えば高校卒業後に大手芸能事務所の芸人養成校へ進んだお笑い芸人は、一度もブレイクしたことがないが、「普通の社会人になるなら死ぬ」とまで断言し、フリーで芸人を続けている。

そこまでお笑いに執着するのは、「金持ちになりたい」という思いがあるからだ。彼によれば、野球選手や漫画家だと才能のあるなしが影響するが、お笑いには誰でもチャンスがあるというのである。だから自分のようなダメ人間でも、一攫千金が夢ではないという発想だ。


 ずっと六畳風呂なしのアパートに住んでますけど、独りでいると不安になります。このまま孤独死するんじゃないかって。スポットで派遣のバイトもやってるので生活の心配はないですけど、それだって海っぺりの倉庫で梱包詰めとか、住宅街の倉庫で保険会社や旅行会社のノベルティの袋詰めとか、正直終わってる仕事です。芸人としての夢がなければ続きません。(29ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中