宇宙飛行士が語る「宇宙日本食」体験──宇宙で食料を作る試み
植物栽培実験装置(Plant Habitat)で育成した植物と金井宇宙飛行士 JAXA/NASA
<各国の宇宙飛行士の好みや食べ慣れた味付けに合わせた、参加国独自の宇宙食の開発が進んでいる......>
宇宙食をめぐる話題はいつも人気だ。どうやら、チューブ式の食事だけではないらしいということは知られるようになってきた。だが、誰が何をどんなふうに食べているのかということは宇宙飛行士ミッションの中でいつも話題になる。
1965年3月、ジェミニ3号に搭乗したジョン・ヤング宇宙飛行士がこっそり船内服のポケットに忍ばせて持っていったコンビーフ・サンドイッチ(ほとんど食べられずに持ち帰られ、当時のジェームズ・ウェッブNASA長官が議会で証言するほどの大騒ぎになった)は、現在ではアクリルに封じ込められて博物館の展示品になっている。
宇宙で食料を作ろうというJAXAと民間企業の共同プログラム
宇宙食をいつも地上で食べているような"普通のもの"にしたいという要求も当然ある。国際宇宙ステーションに搭乗する宇宙飛行士のため、各国の宇宙飛行士の好みや食べ慣れた味付けに合わせた、参加国独自の宇宙食の開発も進んでいる。
日本では「宇宙日本食」としてホテイフーズの「ホテイやきとり(たれ味)宇宙用」と「ホテイやきとり(柚子こしょう味)宇宙用」がJAXAによって認証された。やきとりに加え、鮭おにぎりや赤飯、レトルトカレー、サバの缶詰(味噌煮も醤油味もある)や緑茶など19社による34品目が認証されいる。
すでにある食品を宇宙食化するだけでなく、新たに宇宙で食料を作ろうという試みも始まっている。JAXAと民間企業が共同で2019年3月から開始した「Space Food X」は宇宙の食料生産の技術、マーケットの創出を目指すプログラムだ。
これまでの宇宙食は、地球から調理済みの食品を持っていって宇宙で消費する、いわば「お弁当」だ。そのため、宇宙日本食の認証にしても保存食としての安全性や保存期間、製造プロセスの仕様を満たすこと、といった基準をもとに審査される。一方で、現在のISS滞在よりもさらに長期間になる火星探査や、月面での恒久的な拠点などが実現するとすれば、地球上で製造した食品を宇宙へ届け続ける食料供給には限界が来ることが考えられる。
そこで、植物工場のような仕組みを宇宙の閉鎖環境の中で実現して食料を現地生産できるようにする。例えば、サツマイモは生産効率が高く、押入れ程度のコンパクトなスペースの中でいっぱいに栽培することで人ひとりのカロリーを満たすことができ、塊根(いもの部分)も葉も食べられるため味覚のバリエーションも満足できるという。
水耕栽培の植物工場とドジョウなど魚の養殖を組み合わせる研究もある。藻類と動物の細胞を培養し、藻類が光エネルギーを取り入れて供給する酸素や栄養をもとに動物の細胞を成長させ、動物細胞から培養肉を作る、という構想もある。