最新記事

中東

米制裁で揺らぐイランの中東覇権──支配下のイラクやレバノンでも反イラン暴動

Trump Sanctions Weaken Tehran as Protests Escalate In Iran, Iraq, Lebanon

2019年11月20日(水)18時25分
ジョナサン・ブローダー

レバノンでも、政府の腐敗と経済危機に対する国民の怒りが激しい抗議デモにつながっている。すでにサード・ハリリ首相は辞任に追い込まれ、新しい政府を作る試みも阻止された。

イラクのデモほど暴力的ではないが、レバノンのデモの参加者は、キリスト教徒とスンニ派、シーア派間で権力を分け合う従来の構造と無縁の有能な実務家タイプを指導者に求めている。

こうしたデモによって、レバノンで最も強力なシーア派民兵集団ヒズボラの支配が脅かされている。ヒズボラもまた、イランの意を受けて動いてきた組織だ。

イラクとレバノンの混乱は、民主化運動「アラブの春」の新バージョン、つまりイラン、イラク、レバノンの各政権に対する市民の新たな蜂起の波、と見ることもできる。いずれの国でも指導者層は巨額の富を得る一方、一般国民は収集されない路上ごみの山、汚染された水、1日数時間しか供給されない電力といった状況を耐え忍んでいる。

レバノンの悲劇を悪化させているのは、国の多額の債務と銀行閉鎖を余儀なくされた外貨危機だ。これによって給与の支払いが滞り、外国商品の輸入もできなくなった。

2011年に始まった最初の「アラブの春」のおかげで、チュニジアでは民主政府が生まれたが、エジプトでは軍事弾圧、リビアとシリアでは血なまぐさい内戦が発生した

権力の空白を埋めたイラン

現在の抗議行動がどこへ向かうのか、行方を見極めるにはまだ早すぎる。だが、今回の一連のデモが以前と異なるのは、デモ参加者がイランを非難していることだ。

イランは、レバノンやイラクやシリアにさまざまなシーア派政党や民兵などの代理勢力を育て上げ、過去数十年にわたって中東で最も影響力のある強国として浮上した。

イラン国民は以前にも政府の緊縮措置に抗議したことがあるが、イラン政府の地域的影響が最も強い2つの国で、イランに楯突く動きが発生したのはこれが初めてだ

「政府の腐敗が起きると、人々は支配者を非難する。そしてレバノンとイラクの事実上の支配者はイランだ」と、ワシントン中近東政策研究所のレバノン専門家ハニン・ガダールは本誌に語った。

1979年のイスラム革命以降、パレスチナとイスラエルの紛争や、アメリカのイラク侵攻、その他地域の大変動の結果として中東で起きた権力の空白の一部をイランは埋めることができた。

その結果、イランの軍事的および政治的影響力が中東全体に拡大し、地域のパワーバランスが変化した。アメリカの支援を受けたスンニ派アラブ諸国からイラン支配下のシーア派代理勢力に力がシフトしたのだ。

1982年にレバノンにヒズボラが設立されるとともに、イランは地域への影響力を拡大し始めた。ヒズボラは1983年にベイルートで241人が死亡したアメリカ海兵隊兵舎爆破事件を起こし、その後レバノンに進駐していたイスラエル軍を追い払い、レバノンの連合政府における主要勢力となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、成長率とインフレ率見通し一部上方修正=スタ

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中