北京、動くか 香港デモ
今年4月3日に出されたアメリカ国防総省の「5Gエコシステム:国防総省に対するリスクとチャンス」という報告書では「5Gにおいてアメリカは中国に敗けている」ことを認めているが、今般の「2019年、年次報告書」においても、「次世代通信技術の覇権争いで、中国がアメリカを追い抜こうとしている」と指摘している。
この「国際標準」に関しては、日本が韓国をホワイト国から除外したせいで、これまで国際標準を決めるための5G必須特許出願の国別シェアは「中国勢:26.75%、韓国勢:25.08%」というギリギリのせめぎ合いだったものを、韓国に不利にさせてしまったので、中国に有利になっている(詳細は7月7日付コラム「対韓制裁、ほくそ笑む習近平」)。
だから「2019年、年次報告書」は「中国が国際標準を握ればアメリカの安保上のリスクは、それだけ増すだろう」と懸念している。これは中国にとって有利な分析になっているはずだが、当該報告書が香港情勢に対して実に厳しい指摘をし、かつ報告書の警告に沿って米議会上院で「香港人権民主法案」を可決する勢いが見られるので、習近平はそれをさせまいとして香港に対する意思表示をしたものと考えることができる。
香港駐屯の中国人民解放軍が突如奇妙な「出動」?
しかし、11月16日、香港駐在の中国人民解放軍は突如、奇妙な行動に出始めた。駐屯地を出て、デモ隊が路上に設置した障害物を取り除く行動に出たのである。しかも軍服ではなく丸腰で、Tシャツと短パン姿だ。
「軍が出動しますよ」という異常な威嚇を含めながら、「アメリカの手には乗らない」というシグナルを発しているようにも思える。いずれにしても、もし香港で強硬措置が実行されたとしたら、それは冒頭に述べた習近平の号令の下に動いたものと解釈しなければならない。
ここで再び申し上げたい。
このような習近平を、我が国は「国賓」として招こうと必死だ。国賓として来日すれば天皇陛下に拝謁することにもなる。それがどのようなメッセージを世界に届けることになるか、安倍総理には熟考して頂きたい。かかる国際情勢にあって、習近平を国賓として招くことは日本国民に如何なる利益ももたらさないし、大きな国際的ダメージを与え、中国に利し、アメリカの戦略に逆行する。絶対に招くべきではない!
香港の若者が自由と民主を求める気持ちは「本物」だ!状況がどうであれ、そのことに変わりはない。その意味でも、習近平を国賓として招くことに、強烈に反対する。
なお、拙著『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』では、4月3日の国防総省報告書「5Gエコシステム:国防総省のリスクとチャンス」に重点を置いて考察した。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。