最新記事

防災

「電柱ゼロ」は幻想か? 必要性、実現可能性、普及のカギを探る

2019年11月14日(木)10時16分
南 龍太(ジャーナリスト)

すべての電柱が地中に埋まる日は来るか Asobinin/iStockphoto

<日本の各都市での進捗率は軒並み1ケタ台だが、ロンドンや香港では100%達成。諸外国の先行例から学べることは多い>

今年、各地に大きな被害をもたらした台風。15号は巨大な鉄塔や多数の電柱をなぎ倒し、千葉県を中心に大規模な停電を引き起こした。

地震にも大雪にも弱い電柱は、自然災害で倒壊に見舞われるたびに、地中に埋める「無電柱化」推進の機運が高まってきた。特に、昨年は大阪と名古屋、今年は首都圏で、倒れた電柱による停電などの被害が甚大だったことから、都市部での無電柱化を急ぐべきだとの声が一層強まっている。

欧州をはじめとする無電柱化の先進地域に比べ、低調な進捗の日本。諸外国の先行例を取り入れながら課題の高コスト体質から脱却するとともに、日本ならではの工夫を付け加えられるかが導入拡大のカギとなりそうだ。

無電柱化の意義

11月10日は「無電柱化の日」。「無電柱化の推進に関する法律」で「国民の間に広く無電柱化の重要性についての理解と関心を深める」のを目的に、2017年から始まった取り組みだ。今年もこの日やその前後に東京や大阪などの各自治体、国土交通省が関連のPRイベントを開いた。大阪市は2018年の台風21号で電柱が倒れて道路をふさいでいる写真などを展示して無電柱化の意義を強調し、東京では小池百合子知事が導入加速を訴えた。

昨年の台風21号では関西電力と中部電力のエリアで計1600本余りの電柱が折れ、一時約240万世帯で停電が起こった。今年9月に関東で猛威を振るった台風15号でも、2基の鉄塔と約2000本の電柱が折損するなどして千葉県を中心に一時93万世帯余りが停電した。

191112mi1.png

電線を地中に埋めれば、台風によって吹き飛ばされたトタンなどが電線に引っ掛かって電柱が倒れるといった事故は防げる。

無電柱化の主な利点は、そうした「都市防災機能の強化」の他に2つあると、全国で最も先進的な東京都は指摘する。すなわち「歩行空間の確保」と「良好な都市景観の形成」だ。電柱をなくせば、車いすやベビーカーが通りやすくなり、電線によって景観が損なわれるといった不利益を解消できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中