最新記事

中国

習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度

2019年11月5日(火)11時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

(3)ビットコインやLibra(Facebookの仮想通貨)が成功するとは思えない。貨幣の価値は信用から生まれる。信用のない仮想通貨は、根のない草に等しい。
中国中央銀行はすでにデジタル通貨を5-6年にわたって研究してきた。したがって最初にデジタル通貨を発行する銀行になるかもしれない。

(4)通貨のデジタル化は世界の貨幣事情を変える。昔の貨幣は金本位制、その後は国家の信用に基づくことになった。アメリカが軍事と経済の実力により、石油と国際貿易のドル決済を独占し、実質的な世界通貨となったが、それがデジタル通貨によって打破される

(5)個人の支払い方法を革新させる。中国のデジタル支払い(キャッシュレス)は世界トップクラスで、2018年の支払い金額が39兆ドルであるのに対して、アメリカは1800億ドルでしかない。ブロックチェーンは支払い機構と銀行を繋げるネットワークとなり、クロスボーダーの支払いをより簡単かつ迅速化できる。

(6)デジタル化は産業チェーンの効率を上げることができる。5Gのモノのインターネットに融合できて、消費者向けだけではなく、産業向けのインターネットを構築し、効率を大幅に上げることができる。

結論

結論的に言えるのは、中国という国家にとってブロックチェーンとデジタル通貨を採用することは、現金と違って履歴が残るために改ざんを防ぎ、国家の統一的な管理が容易になるというメリットをもたらす。

これにより国内的にはマネーロンダリングや詐欺、脱税などを防ぐことができる。金の流れまで記録できるのだから、人民への監視はさらに強まるだろう。

国外的には、人民元のグローバル化、延いては米ドル覇権の打破に繋がると習近平政権は考えているにちがいない。

デジタル通貨に民間が先に手を付ける前に、国家が握ってしまった方が得策だと判断したのは確かだ。

これを実行することにより果たして人民元が米ドル覇権を打破できるのか否か。

今後注目していきたい。

なお、フェイスブックのザッカーバーグCEOは10月23日、米議会下院金融サービス委員会の公聴会で仮想通貨「リブラ」の発行を阻止しようとする米議会に「アメリカは仮想通貨で中国に敗退する」と抗議した。

習近平がブロックチェーンに関する国家戦略を発表したのはその翌日の10月24日である。ザッカーバーグの警鐘は当たっているのだろうか。


(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所の論考から転載した。)


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中