退職後に生活水準の低下をどう防ぐか?──リバース・モーゲージなど金融商品の活用について考える
結果は図表4の通りで、リバース・モーゲージの活用により生活水準を維持することは難しい。借入金利が1.5%と低い場合、中・高所得者層でグループ4(生活水準が10%以上低下する可能性が大きい)の出現割合が多少低下する。しかしながら、条件を満たせば割引金利が適用される一般的な住宅ローンと異なり、リバース・モーゲージの借入金利はおよそ3.0%(割引適用前の基準金利+α)と高く、1.5%という設定が現実的でない6。借入金利が3.0%前後ならほとんど効果はない上に、金利上昇による支払負担増加リスクを抱えることにもなる。前述の通り、リバース・モーゲージの大部分は変動金利型だが、仮に固定金利型を利用できるとしても、通常、借入金利は固定金利型の方が高いため、生活水準の維持には役立たない。
リバース・モーゲージによる効果が低いのは、生存中に資産が枯渇する確率を5%に抑えることを前提としているからである。資産が枯渇を招くファクターは長生きだけでなく、老齢厚生年金を受給できる夫の早世も資産の枯渇を招く。リバース・モーゲージは、契約者(通常、夫)が死亡しても、配偶者(通常、妻)が生存している限り元本返済の必要はないが、夫が死亡して年金受給額が減っても利息の支払いは免除されない。また一般の住宅ローンと異なり元本を返済しないので、借入金利3%の場合、夫婦の一方もしくは双方が長生きして借入期間が31年を超えると支払い総額が元本を超える。そして65歳女性が96歳以上まで生存する確率は20%を超える(図表5)。つまり、公的年金の一部を借入金の返済に充てる必要性があるほど多額な借入金を抱える世帯にとって、リバース・モーゲージへの借換えは目先の借入金返済負担を軽減する有効な手段とはなるが、長生きした場合や生存中に金利が上昇した場合には、生活水準の低下を招く。借入は一生の間での消費時期の前倒し手段に過ぎないのだから、長生きに備えた資産不足を補う手段にはならない。長生きに備えた資産が圧倒的に不足する場合は、やはり、就業期間を更に延長するか、長生きリスクをシェアすることで一世帯当たりの必要資産額を引き下げる仕組みが必要となる。
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6 一般の住宅ローンのように、条件を満たせば借入金利を割引くことで、1.5%程度の商品もあるが、その条件は他のサービスの併用(購入)であり、老後の生活資金が不足する世帯は通常購入しない余裕のある世帯向けサービスである。