最新記事

香港デモ

香港デモ隊と警察がもう暴力を止められない理由

Hong Kong’s Violence Will Get Worse

2019年11月12日(火)18時25分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

──一連の暴力が衝撃的なのはなぜか

平和で安定した都市、というのが香港のこれまでのイメージだったからだろう。現実にはそうでもない部分もあり、香港では過去にも数々の抗議デモが行われている。デモ隊と警察が激しく衝突した1967年の暴動(六七暴動)は、今回のデモよりも遥かに激しかった。
香港警察についても「プロに徹していて統制が取れている」という見方が多かった。特に1974年に警察など公務員の汚職を取り締まる廉政公署(汚職に対抗する独立委員会)が発足し、上層部が訴追された後の警察には良いイメージがあった。


もっとも、これほどの規模の抗議デモがアメリカの都市で8カ月も続いたら、もっと多くの死者が出て、警察による暴力も激化していただろう。2014年8月に米ミズーリ州ファーガソンで、白人警官が無防備な黒人青年を射殺する事件が起きた。発砲した警官が不起訴になったのを受けて抗議デモが始まったが、警察はデモの「初日」からゴム弾と催涙ガスを使っている。しかし香港では、一般市民は銃を所持していないし、警察が武器を使用するケースも元々きわめて少ない。暴力は稀だ。

──警察はなぜ同じ香港市民を攻撃するのか

それは、彼らが「警察」だからだ。香港には本格的な軍隊がないし、警察による人種差別もない。しかし、警察を暴力行為に走らせる基本的な原動力は、世界どこでも同じだ。市民と警察は対立するものだという通常のメンタリティに加えて、警察は暴力をふるっても罪に問われない側面がある。政治的な問題ではとくに、法執行機関は過剰な武力行使に走りやすい。

香港警察はまた、中国の治安組織である中国人民武装警察部隊(武警)から助言を得たり、訓練や装備の面で支援を受けたりしているようだ。中国の治安部隊は通常、デモを潰すときは徹底的に潰す。チベット自治区や新疆自治区など、少数民族に対しては特にそうだ。従って、中国の軍事手法が香港警察に浸透しているのは当然と言える。武警の人間が香港警察内に紛れ込んでいるという噂もある。

──平和に戻る方法はあるのだろうか

理屈の上では、ある。だが、実際問題としては、おそらくないだろう。

警察の暴力について本格的な調査を行うとともに、重罪犯を除くデモ参加者全員に恩赦を実施すれば、事態が収拾できる可能性はある。そのためには、第三者委員会ならびに腐敗防止のための委員会を立ち上げることになるし、香港特別行政区行政長官の林鄭月娥の辞任も避けられないだろう。だがそうすれば、デモ参加者たちの要求は1を除いてすべてが叶う。あとは普通選挙の実施だけだ。抗議デモは続くだろうが、警察が暴力を慎み、正義が行われそうだという確信を市民が持つようになれば、事態は鎮静化に向かうかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB議長に選ばれなくても現職にとどまる=米NEC

ビジネス

米小売業の求人、10月は前年比16%減 年末商戦の

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中