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日本経済

中小企業の「2025年問題」──根深い事業承継問題

2019年11月7日(木)13時50分
中村 洋介(ニッセイ基礎研究所)

事業承継を考える経営者・中小企業は、早めに課題に着手する必要がある。仮に後継者が見つかったとしても、後継者の育成やその準備に数年かかることも多い。M&Aによる株式譲渡、事業譲渡等を考えるにも、実際にM&Aが成立するまでには時間がかかる。買い手がすぐに見つかるとは限らないし、買い手候補が見つかったとしても、企業価値算定・デューデリジェンス・条件交渉(譲渡価格、今後の経営方針、従業員の処遇等)には一定の時間を要する。売り手の時間に余裕がなければ、足もとを見られて買い手ペースで交渉を進めなくてはならないこともあろう。また、所在不明株主が存在する場合には、買い手が嫌がって条件で譲歩せざるを得ないケースもある。そうした所在不明株主の整理等にも時間を要する点には留意が必要だ。また、M&Aによる承継が増えてきたとはいえ、小規模・零細事業者のM&Aの担い手はまだまだ少なく、小規模・零細になるほどハードルも高い。このように、事業承継には時間がかかり、早めの着手が求められるものの、実際には何から手をつけて良いか分からない経営者も多い。地域金融機関、地方自治体、商工会・商工会議所等の支援組織の一層の啓蒙・支援活動に期待したい。

また、親族内承継であっても、親族外承継であっても、如何に企業の魅力を高められるかが重要だ。中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」4の中でも、事業承継に向けた経営改善、会社の「磨き上げ」の重要性が強く指摘されている。後継者候補に是非継ぎたいと思わせるように、他の企業から是非買いたい、その事業が欲しいと言われるように、企業の魅力を高めていく必要がある。

継続的に利益を出して成長し、雇用の受け皿となるような魅力や可能性のある中小企業が、後継者がいないという理由で廃業に追い込まれるのは余りに惜しい。事業承継で経営者としてチャレンジしたいという人材を増やしていく必要がある。イノベーション推進・ベンチャー支援策にも共通する点だが、日本はリスクをとって起業等にチャレンジする人が少ないことが長らく指摘されてきた。アントレプレナーシップ(起業家精神)を育む起業家教育や、承継後間もない経営者への支援策、ロールモデルの提示等の更なる推進が必要だろう。

――――――――――
4 中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf

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