最新記事

香港デモ

『ジョーカー』にヒーローを見始めた香港の若者たち

'Joker' Is Inspiring Some Hong Kong Protesters

2019年10月31日(木)15時55分
ジェームズ・パターソン

悪役ジョーカーは、世界中で抵抗のシンボルになりつつある(写真はボリビアのデモ参加者) Kai Pfaffenbach-REUTERS

<ゴッサムシティはまさに今の香港だ、反逆者ジョーカーは自分たちのリーダーだ、という危険なアナロジー>

スーパーヒーローのバットマンが、リドラー、ペンギンやキャットウーマンといった犯罪者や、宿敵ジョーカーとの戦いを繰り広げるゴッサムシティ。この架空の街ゴッサムと実在の街である香港が「似ている」という指摘は、これまでにもあった。

それが今回いっそう熱を帯びているのは、映画『ジョーカー』が、香港の反政府デモが何カ月も続くなかで公開されたからだ。この映画を観た香港デモ参加者の一部が、正義の味方のバットマンではなく、悪役ジョーカーに「ヒーロー」を見ている。「レジスタンス(抵抗)の象徴」「反逆者の精神的リーダー」として。

映画でジョーカーを演じたのはホアキン・フェニックス。冴えない大道芸人だったアーサー・フレックが、ゴッサムシティ有数の凶悪な犯罪者ジョーカーへと変貌していくという役どころだ。貧富の格差が広がり、荒廃したゴッサムシティで権力をあざ笑うジョーカーに、自分たちの姿を重ね合わせているのだ。


不気味なほど似た破壊の光景

そうした香港の感情を表すソーシャルメディアへの投稿を幾つか挙げると......。

「2016年に香港独立を求める『暴力的な抗議デモ』に関与したとして実刑判決を受けた活動家、梁天琦はジョーカーそのものだ」

「林鄭月娥行政長官のモデルは、バットマンの父親トーマス・ウェインに違いない」──映画の中でトーマス・ウェインは、裕福で傲慢で現実を理解しない人物として描かれ、ゴッサム市の市長選に出馬する。

映画を観た学生キミー・ウーは、ジョーカーのカウンセラーを香港政府になぞらえた。「いつまでも耳を傾けないところが似ている」という。

ゴッサムシティの市民が地下鉄の駅で戦うシーンは、誰が見ても、香港の地下鉄の駅で実際に起こった警察とデモ隊の衝突にそっくりだ。

映画のラストではゴッサムシティ暴動が起きる。街ではさまざまな破壊行為が行われ、空気中には催涙ガスが漂い、店先の落書きや割れたガラスが映し出される。ここ数カ月の香港の街頭と不気味なほど似通っている。

<参考記事>『ジョーカー』怒りを正当化する時代に怒りを描く危うい映画
<参考記事>香港の若者が一歩も退かない本当の理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中