日本の鉄道外交は脱・新幹線で勝ちに行け!
Thinking Small in Rail Diplomacy
東南アジアの既存の鉄道路線は狭軌が主流だ。自動列車停止装置(ATS)がない、電化されていない、複線化されていないなど改善の余地は大いにある。だからこそ既存のレールを改良すれば、HSR用に標準規格(幅1.435メートル)のレールを敷設するより低コストで既存の鉄道網により広範囲に接続でき、これらの国の能力を最大限に活用できる。これが開発と経済成長を促し、機が熟したらHSRを導入する道も開ける。これは日本が鉄道輸送の開発でたどってきた歴史でもある。
実際、国際協力機構(JICA)は何十年もそうした比較的小規模な鉄道プロジェクトを行ってきたが、その手の取り組みは普通、地政学的政策の一環ではなく国際協力扱いで、中国のHSR外交に対抗するものには見えない。
東南アジアは経済的可能性を秘めているが、シンガポールとマレーシアの首都クアラルンプールを結ぶHSRプロジェクトは財政難で延期になり、この地域のHSR熱に水を差した。近年の世界経済の不透明さもHSRなどカネのかかるインフラ事業への懐疑的な見方を加速させている。HSRよりも従来型の鉄道プロジェクトを重視するほうが、国内外の接続の大幅な向上が見込めるかもしれない。
中国との差別化で活路を
もちろん、中国の鉄道産業にも狭軌レール事業に対応する能力はある。1970年代に中国の援助で建設されたタンザニアのタンザン鉄道や、最近のカンボジアの鉄道網改良プロジェクトがいい例だ。だが一帯一路の需要は高く広範囲に及ぶため、多様なプロジェクトの効率的開発には標準化がカギになる。
中国の鉄道網のほとんどは標準規格なので、一帯一路の開発ペースを維持するには同様の事業を複数の国で再現することが重要だ。一帯一路の鉄道事業は旧ソ連圏以外は標準規格が主流で、東南アジアではHSR事業に加え、マレーシアの東西海岸を結ぶ鉄道もそうだ。アフリカでも既存路線を改善せず、標準規格のレールを敷設している。だから、現地仕様の既存の鉄道網の改善が一帯一路の主流になる可能性は低い。
日中関係の変化も、日本の外交に占める新幹線の比重を減らすかもしれない。昨年10月の日中首脳会談では第三国におけるインフラ開発と一帯一路での協力で合意した。HSR共同事業はまだ行われていないが、融和的ムードに対抗的アプローチはそぐわない。
ニッチを狙う現実的な選択が、日本の鉄道外交の未来になるだろう。そうなれば新幹線は日本の鉄道産業が提供できるオプションの1つへと後退し、日中がHSRで直接競う頻度は減るはずだ。鉄道外交に対する両国のアプローチは今後ますます違ったものになるかもしれない。
©2019 From thediplomat.com
<2019年11月5日号掲載>
【参考記事】日本の新幹線の海外輸出を成功させるには
【参考記事】日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由
10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!