最新記事

高速鉄道

日本の鉄道外交は脱・新幹線で勝ちに行け!

Thinking Small in Rail Diplomacy

2019年10月31日(木)18時30分
ウー・シャンスー(南洋理工大学、S・ラジャラトナム国際研究大学院研究員)

東南アジアの既存の鉄道路線は狭軌が主流だ。自動列車停止装置(ATS)がない、電化されていない、複線化されていないなど改善の余地は大いにある。だからこそ既存のレールを改良すれば、HSR用に標準規格(幅1.435メートル)のレールを敷設するより低コストで既存の鉄道網により広範囲に接続でき、これらの国の能力を最大限に活用できる。これが開発と経済成長を促し、機が熟したらHSRを導入する道も開ける。これは日本が鉄道輸送の開発でたどってきた歴史でもある。

実際、国際協力機構(JICA)は何十年もそうした比較的小規模な鉄道プロジェクトを行ってきたが、その手の取り組みは普通、地政学的政策の一環ではなく国際協力扱いで、中国のHSR外交に対抗するものには見えない。

東南アジアは経済的可能性を秘めているが、シンガポールとマレーシアの首都クアラルンプールを結ぶHSRプロジェクトは財政難で延期になり、この地域のHSR熱に水を差した。近年の世界経済の不透明さもHSRなどカネのかかるインフラ事業への懐疑的な見方を加速させている。HSRよりも従来型の鉄道プロジェクトを重視するほうが、国内外の接続の大幅な向上が見込めるかもしれない。

中国との差別化で活路を

もちろん、中国の鉄道産業にも狭軌レール事業に対応する能力はある。1970年代に中国の援助で建設されたタンザニアのタンザン鉄道や、最近のカンボジアの鉄道網改良プロジェクトがいい例だ。だが一帯一路の需要は高く広範囲に及ぶため、多様なプロジェクトの効率的開発には標準化がカギになる。

中国の鉄道網のほとんどは標準規格なので、一帯一路の開発ペースを維持するには同様の事業を複数の国で再現することが重要だ。一帯一路の鉄道事業は旧ソ連圏以外は標準規格が主流で、東南アジアではHSR事業に加え、マレーシアの東西海岸を結ぶ鉄道もそうだ。アフリカでも既存路線を改善せず、標準規格のレールを敷設している。だから、現地仕様の既存の鉄道網の改善が一帯一路の主流になる可能性は低い。

日中関係の変化も、日本の外交に占める新幹線の比重を減らすかもしれない。昨年10月の日中首脳会談では第三国におけるインフラ開発と一帯一路での協力で合意した。HSR共同事業はまだ行われていないが、融和的ムードに対抗的アプローチはそぐわない。

ニッチを狙う現実的な選択が、日本の鉄道外交の未来になるだろう。そうなれば新幹線は日本の鉄道産業が提供できるオプションの1つへと後退し、日中がHSRで直接競う頻度は減るはずだ。鉄道外交に対する両国のアプローチは今後ますます違ったものになるかもしれない。

©2019 From thediplomat.com

<2019年11月5日号掲載>

【参考記事】日本の新幹線の海外輸出を成功させるには
【参考記事】日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由

20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日・インドネシア両首脳、エネルギー安保の観点で連携

ビジネス

訂正-デンソーが中計、30年に営業利益率10%以上

ビジネス

エヌビディアのPERが7年ぶり低水準、中東情勢やA

ワールド

焦点:ウクライナ、ドローン迎撃技術輸出の好機 中東
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中