最新記事

テクノロジー

中国発の量子コンピューターショックに世界は耐えられるか?

Are We Ready for a 'Quantum Surprise' From China?

2019年10月28日(月)19時10分
フレッド・グタール(サイエンス担当)

量子コンピューターが持つ破壊力は非常に大きなものになるはずだ。現在使われている暗号化の仕組みは1970年代に開発されたもので、数学的な複雑さに依存して解読を防止している。暗号化されたデータを復号するには、送り手と受け手のみが持つ「鍵」(桁の大きな数字)を使う。鍵がない場合、暗号の解読には大規模な計算が必要になるが、これには世界トップクラスのコンピューターであっても永遠に近い時間がかかる。

だが量子コンピューターの前では、現行の暗号化技術は過去の遺物になってしまうだろう。0か1かのビット単位で計算する従来型コンピューターと異なり、量子コンピューターで利用されるのは、1と0が同時に存在できるという量子の奇妙な性質だ。物理学者のエルビン・シュレーディンガーはこの「重ね合わせ状態」を、「同時に死んでも生きてもいるネコ」になぞらえたことで知られる。

例えば光の粒子(光子という)は、0と1を一度に表すような状態で存在することができる。量子コンピューターはこうした粒子を操作して多くの計算を同時に行う。暗号の解読のような複雑な問題を解くスピードも大幅に速くなる。

量子コンピューターだけは自前で

中国は量子コンピューターを戦略的な重要課題と位置づけている。過去には他国の技術を盗んだと非難されることもままあった中国だが、量子コンピューター研究に関しては自前であり、レベルも高い。安徽省の新しい研究施設には4億ドルもの資金が投じられたと伝えられている。

量子コンピューターを開発しているのは中国だけではなく、アメリカでも欧州でも、日本でも開発プロジェクトが進行中だ。米国家安全保障局(NSA)の開発プロジェクトの予算は8000万ドルで、エドワード・スノーデンの内部告発によってその存在が明らかになった。

量子コンピューターのパイオニア企業

国家機密を守るため、各国とも量子コンピューターでも破られない暗号化通信技術の開発に着手している。数字の鍵の代わりに光子のような粒子を使う暗号だ。

2017年に中国が行った実験では、1200キロ離れた2つの地上ステーションに向けて人工衛星から光子を発射。すると、一方の地上ステーションに送られた光子はもう1カ所に送られた光子と「量子もつれ」の状態になった。量子もつれとは量子力学におけるもう1つの奇妙な性質で、2つの粒子が何らかの形で相関を持つ状態を言う。アルバート・アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼んだ。量子もつれの状態にある粒子は、暗号化通信においてハッキング不可能な鍵として利用できる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中