中国発の量子コンピューターショックに世界は耐えられるか?
Are We Ready for a 'Quantum Surprise' From China?
量子コンピューターが持つ破壊力は非常に大きなものになるはずだ。現在使われている暗号化の仕組みは1970年代に開発されたもので、数学的な複雑さに依存して解読を防止している。暗号化されたデータを復号するには、送り手と受け手のみが持つ「鍵」(桁の大きな数字)を使う。鍵がない場合、暗号の解読には大規模な計算が必要になるが、これには世界トップクラスのコンピューターであっても永遠に近い時間がかかる。
だが量子コンピューターの前では、現行の暗号化技術は過去の遺物になってしまうだろう。0か1かのビット単位で計算する従来型コンピューターと異なり、量子コンピューターで利用されるのは、1と0が同時に存在できるという量子の奇妙な性質だ。物理学者のエルビン・シュレーディンガーはこの「重ね合わせ状態」を、「同時に死んでも生きてもいるネコ」になぞらえたことで知られる。
例えば光の粒子(光子という)は、0と1を一度に表すような状態で存在することができる。量子コンピューターはこうした粒子を操作して多くの計算を同時に行う。暗号の解読のような複雑な問題を解くスピードも大幅に速くなる。
量子コンピューターだけは自前で
中国は量子コンピューターを戦略的な重要課題と位置づけている。過去には他国の技術を盗んだと非難されることもままあった中国だが、量子コンピューター研究に関しては自前であり、レベルも高い。安徽省の新しい研究施設には4億ドルもの資金が投じられたと伝えられている。
量子コンピューターを開発しているのは中国だけではなく、アメリカでも欧州でも、日本でも開発プロジェクトが進行中だ。米国家安全保障局(NSA)の開発プロジェクトの予算は8000万ドルで、エドワード・スノーデンの内部告発によってその存在が明らかになった。
国家機密を守るため、各国とも量子コンピューターでも破られない暗号化通信技術の開発に着手している。数字の鍵の代わりに光子のような粒子を使う暗号だ。
2017年に中国が行った実験では、1200キロ離れた2つの地上ステーションに向けて人工衛星から光子を発射。すると、一方の地上ステーションに送られた光子はもう1カ所に送られた光子と「量子もつれ」の状態になった。量子もつれとは量子力学におけるもう1つの奇妙な性質で、2つの粒子が何らかの形で相関を持つ状態を言う。アルバート・アインシュタインはこれを「不気味な遠隔作用」と呼んだ。量子もつれの状態にある粒子は、暗号化通信においてハッキング不可能な鍵として利用できる可能性がある。