最新記事

貯蓄

資産形成は生涯収入の配分から考える──どう貯蓄し、いつ消費するか

2019年10月18日(金)18時15分
高岡和佳子(ニッセイ基礎研究所金融研究部主任研究員)

借り入れにも同じ機能がある。消費する時期を後に回すのが貯蓄、前倒しするのが借り入れであり、両者は消費の時期が異なるだけである。

貯蓄は異なる時点間の消費の配分を可能にするための手段の1つにすぎないのだから、貯蓄自体に成功も失敗もなく、あるのは生涯の全収入に対する消費配分の成功と失敗である。一般的に人は変化を嫌うので生涯を通じてなるべく消費水準を一定に保つ目的を持つと考えられる。

若いうちから貯蓄する?

世帯収入は年齢に伴い上昇し、50代でピークを迎え、その後下降する傾向がある(図表1:実収入)。税や社会保険料の負担額の差を勘案しても、所得は年齢によって大きな差がある(図表1:可処分所得)。

年齢によって世帯人員数も異なるし、40代、50代は教育費がかかるが、これらの要素を勘案してもなお、年齢によって所得水準は異なっている(図表1:教育費控除後等価可処分所得〔(可処分所得-教育費)÷√世帯人員数、世帯人員数の平方根で割る理由は、人員数の低下に伴う生活コストの上昇を考慮するため〕)。

これに対し消費水準は、世帯人員の相違や教育費を勘案すると年齢によらず、ある程度一定に保たれているようだが(図表1:教育費控除後等価消費支出〔(消費支出-教育費)÷√世帯人員数〕)、65~69歳の無職世帯の消費水準199万円は退職前のピーク時(55~59歳)223万円に対して10%以上も低い。

退職後の10%を上回る生活水準低下が、本人が意図したものでなければ、生涯にわたる消費配分の失敗と言えよう。

公的年金に現役時代と同程度の収入を期待することはできない。現役世代の手取り収入額に対する公的年金額の割合は、中長期的に50%程度になることが見込まれている。退職後も消費水準を維持したければ、現役時代に貯蓄する必要がある。

消費水準を一定に保つことだけが目的ならば、所得が高くない若いうちから貯蓄する必要はない。しかし、少しでも有利に資産を形成することで消費総額を増やしたければ、なるべく若いうちから貯蓄することが望ましく、その理由は3つある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中