資産形成は生涯収入の配分から考える──どう貯蓄し、いつ消費するか
実はより多く消費したい人にとっても貯蓄には意味がある 60kean/iStock.
<消費配分を成功に導くには、現在の資産額と将来の収支見通しを参考に消費配分を定期的に見直すプロセスが必要だ>
そもそも貯蓄って何だろう。まれに「お金持ちは貯蓄しない」といった話を聞くが、よくよく聞くと「金持ちは積極的に投資する」といった趣旨であることが多く、この場合は貯蓄に投資は含まれない。
広辞苑では、貯蓄は「財貨をたくわえること。ためること。また、その財貨。」であり、財貨は「貨幣または有価物。」だ。株式や投資信託などの投資対象は有価物だから、広辞苑の定義では投資も貯蓄に含まれる。
このように「貯蓄」の定義はさまざまだ。そこで、所得のうち消費しないで残す部分を広義の貯蓄、広義の貯蓄のうち投資以外を狭義の貯蓄と定義する。これ以降、簡略化のため広義の貯蓄は単に貯蓄と記述する。
なぜ人は貯蓄をするのだろうか。家計の貯蓄・消費行動を説明する有力なモデルは2つあり、モデルの1つは死後に資産を残そうと考える人、もう1つのモデルは死後に資産を残そうとは考えない人を前提とする。
貯蓄は所得のうち消費しないで残す部分なのだから、前者はより多くの遺産を築きたい人、後者はより多く消費したい人と言い換えてもよい。
より多くの遺産を築く目的は、子孫により良い生活を送ってほしいという利他的な願いかもしれないし、遺産があれば子孫が老後の面倒を見てくれるという利己的な思惑かもしれない。中には資産を積み上げること自体に喜びを感じる人もいるだろう。
目的が何であろうと、より多くの遺産を築きたい人にとっては貯蓄に何らかの意味がある。貯蓄に意味があるのか疑問に思う人は、より多く消費したい人ではないだろうか。そこでより多く消費したい人を前提に、これ以降の話を進める。
貯蓄のためには消費を減らす必要があるのだが、実はより多く消費したい人にとっても貯蓄には意味がある。貯蓄によって消費する時期を変更できるからだ。今日中に使い切るという条件付きで1億円をもらっても困るように、消費する時期を選べるのと選べないのなら、選べるほうがいいに決まっている。