植物には緊急事態を周囲に知らせる『標準語』があった
虫からの攻撃を受けると、いつもと違う匂いが放たれる...... Andre Kessler/Cornell University
<植物は、昆虫などに攻撃されると、揮発性有機化合物(VOC)を発することがわかっているが、条件によってどのように違うのか......>
植物は、害虫からの攻撃といったストレス要因に反応すると、揮発性有機化合物(VOC)を発して情報を伝達し、周囲の植物は、大気中の揮発性有機化合物の排出量の変化から危機が差し迫っていることを感知して自己防衛の準備をする。では、植物はどのような「言葉」で互いにコミュニケーションしているのだろうか。
米コーネル大学のアンドレ・ケスラー教授や龍谷大学の塩尻かおり博士らの国際研究チームは、12年にわたってセイタカアワダチソウの植物間コミュニケーションについて研究し、2019年9月23日、学術雑誌「カレントバイオロジー」でその研究成果を発表した。
これによると、害虫がいない環境では、遺伝的に同一な植物との間でのみコミュニケーションする一方、害虫がいる環境では、遺伝子型によらず、同種の植物すべてとコミュニケーションすることが明らかとなった。
植物は、遺伝子型によって異なる匂いを持つが......
研究チームでは、鉢植えにしたセイタカアワダチソウを用い、自然環境条件下で実験を行った。ハムシの一種「アワダチソウハムシ」の被害を受けたセイタカアワダチソウを中央に配置したグループと、害虫の被害を受けていないセイタカアワダチソウのみで構成されたグループとを比較したところ、後者のセイタカアワダチソウは近縁のみで閉鎖的なコミュニケーションをしていた一方、「アワダチソウハムシ」の被害を受けているグループでは、同じ「言葉」で情報をオープンに共有していた。
この実験結果により、害虫の有無がセイタカアワダチソウのコミュニケーションの方法に大きな影響を与えていることがわかる。
植物は、遺伝子型によって異なる匂いを持ち、同じ遺伝子型の個体間でのみ、揮発性有機化合物の排出によってコミュニケーションするが、害虫からの攻撃を受けると、揮発性有機化合物によって伝達される匂いがより似たものになる。隣接する植物は、揮発性有機化合物を吸収し、この匂いに反応し、自己防衛の準備ができるというわけだ。
揮発性有機化合物の一部は、捕食性の昆虫に魅力的である場合があり、捕食性昆虫が植物を攻撃していた昆虫を殺すことで植物は救われる。そうした間接的な防御法がある。また以前の研究では、昆虫の幼虫は揮発性有機化合物を発している植物を避けることがわかったという。
ヒトの免疫系のよう
研究論文の責任著者であるケスラー教授は、「我々人間は情報を秘密にしたいとき暗号化するが、これと同じ現象が植物でも化学物質レベルで起こっている」と驚きを示すとともに、「植物は害虫や病原体から攻撃を受けると、代謝を変化させることが知られているが、ヒトの免疫系のように、これらの代謝的および化学的変化によって外敵に対処しているのだろう」とコメントしている。