最新記事

植物

植物には緊急事態を周囲に知らせる『標準語』があった

2019年10月7日(月)18時00分
松岡由希子

虫からの攻撃を受けると、いつもと違う匂いが放たれる...... Andre Kessler/Cornell University

<植物は、昆虫などに攻撃されると、揮発性有機化合物(VOC)を発することがわかっているが、条件によってどのように違うのか......>

植物は、害虫からの攻撃といったストレス要因に反応すると、揮発性有機化合物(VOC)を発して情報を伝達し、周囲の植物は、大気中の揮発性有機化合物の排出量の変化から危機が差し迫っていることを感知して自己防衛の準備をする。では、植物はどのような「言葉」で互いにコミュニケーションしているのだろうか。

米コーネル大学のアンドレ・ケスラー教授や龍谷大学の塩尻かおり博士らの国際研究チームは、12年にわたってセイタカアワダチソウの植物間コミュニケーションについて研究し、2019年9月23日、学術雑誌「カレントバイオロジー」でその研究成果を発表した。

これによると、害虫がいない環境では、遺伝的に同一な植物との間でのみコミュニケーションする一方、害虫がいる環境では、遺伝子型によらず、同種の植物すべてとコミュニケーションすることが明らかとなった。

植物は、遺伝子型によって異なる匂いを持つが......

研究チームでは、鉢植えにしたセイタカアワダチソウを用い、自然環境条件下で実験を行った。ハムシの一種「アワダチソウハムシ」の被害を受けたセイタカアワダチソウを中央に配置したグループと、害虫の被害を受けていないセイタカアワダチソウのみで構成されたグループとを比較したところ、後者のセイタカアワダチソウは近縁のみで閉鎖的なコミュニケーションをしていた一方、「アワダチソウハムシ」の被害を受けているグループでは、同じ「言葉」で情報をオープンに共有していた。

この実験結果により、害虫の有無がセイタカアワダチソウのコミュニケーションの方法に大きな影響を与えていることがわかる。

植物は、遺伝子型によって異なる匂いを持ち、同じ遺伝子型の個体間でのみ、揮発性有機化合物の排出によってコミュニケーションするが、害虫からの攻撃を受けると、揮発性有機化合物によって伝達される匂いがより似たものになる。隣接する植物は、揮発性有機化合物を吸収し、この匂いに反応し、自己防衛の準備ができるというわけだ。

揮発性有機化合物の一部は、捕食性の昆虫に魅力的である場合があり、捕食性昆虫が植物を攻撃していた昆虫を殺すことで植物は救われる。そうした間接的な防御法がある。また以前の研究では、昆虫の幼虫は揮発性有機化合物を発している植物を避けることがわかったという。

ヒトの免疫系のよう

研究論文の責任著者であるケスラー教授は、「我々人間は情報を秘密にしたいとき暗号化するが、これと同じ現象が植物でも化学物質レベルで起こっている」と驚きを示すとともに、「植物は害虫や病原体から攻撃を受けると、代謝を変化させることが知られているが、ヒトの免疫系のように、これらの代謝的および化学的変化によって外敵に対処しているのだろう」とコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中