最新記事

地球温暖化

地球温暖化は人間の脳も殺す ──DHA不足で

Climate change will kill your brain by reducing fatty acid: Study

2019年10月24日(木)18時30分
リシャブ・ジェイン

魚が手に入りにくくなることは、脳の材料が手に入りにくくなること StockerThings-iStock.

<魚の減少によるDHAの減少で、世界人口の大多数が必要量を摂取できなくなる日がくる。最初に影響を受けるのは胎児や乳児だ>

カナダの複数の大学が合同で実施した新たな研究によれば、気候変動は私たちの脳も殺してしまうらしい。2100年までには世界人口の大多数が、脳の重要な材料である天然の脂肪酸を摂取できなくなるからだ。

哺乳類の脳には、脳細胞の活性化に役立つ脂肪酸「ドコサヘキサエン酸(DHA)」が豊富に含まれている。人は主に魚介類を食べることでDHAを摂取しており、オメガ3脂肪酸(DHAもその一種)のサプリメントで補っている人もいる。DHAは脂の多い魚に含まれているほか体内でも合成され、熱に弱いのが特徴だ。研究報告は、地球の温暖化によってこのDHAが手に入りにくくなると指摘している。

研究チームは数学モデルを使って、温暖化がDHAの生成と供給にもたらす影響を分析した。すると、今のペースで温暖化が進めば、22世紀までには世界の96%の人の脳の機能が脅かされることになるという結果が出た。

報告によれば、温暖化によって世界中で魚の数が減るおそれがあり、ひいてはDHAの供給量も減るおそれがある。世界人口の増加ペースを考えると、2100年までには、必要量を摂取できるのは、漁獲量の多い小さな国に暮らす人々だけになる可能性がある。

2100年までに6割減る可能性も

DHAは脳の重要な構成要素で、その不足は健康リスクをもたらす。最も影響を受けやすいのは胎児や乳児で、母親がDHA不足だと赤ちゃんの発達に影響が出る可能性が高くなるとみられている。

「我々の研究によれば、温暖化の影響で、今後80年で世界全体のDHA供給量は10~58%減る可能性がある。その最大の影響を受けることになるのが、重要な発達段階にある胎児や乳児たち。また、北極圏と南極圏に生息する捕食性哺乳類にも影響が及ぶ可能性がある」と研究報告は述べている。

DHAは脳の大脳皮質(知覚、運動や記憶などの高次機能をつかさどる部分)の機能や形成において重要な役割を果たすだけでなく、網膜や皮膚の機能にとっても重要だ。

温暖化の影響は、主に淡水の漁業水域や海区にあらわれると予想される。研究チームによれば、アフリカの内陸部に暮らす人々がその最も深刻な影響を受けることになるという。

<参考記事>肉食を減らそう......地球温暖化を抑えるために私たちができること
<参考記事>地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

(翻訳:森美歩)

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中