最新記事

中東

サウジ石油施設攻撃はトランプがなめられたから起きた

This Is the Moment That Decides the Future of the Midle East

2019年9月19日(木)17時20分
スティーブン・クック

湾岸戦争時、アメリカは米軍54万人をサウジアラビアに配し、その後、イラクのサダム・フセイン大統領を武力でクウェートから追い出すにいたったが、その行動は当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が明言したとおり、確固たる原則に基づいていた。ある国が他国を武力併合するのは国際法違反であり、許しがたいということだ。

フセインの国際法違反を見逃すことは、アメリカの中核利益を脅かすのにも等しいことだった。

クウェートを併合する企てを許せば、フセインは調子に乗ってイスラエルを脅かし、サウジアラビアやその他の産油国に脅威を与え、石油の供給を混乱させる危険があった。その過程でアメリカの覇権を脅かしたかもしれない。

1990年の夏、イラクの戦車がクウェートを占領した3日後に、ブッシュが「これは看過できない」と言ったのはそのためだ。

米主導の地域秩序

アメリカは、平時にも石油の道を守ってきた。

イラクとイランに対する「二重の封じ込め政策」からイラン核合意まで、中東外交はすべて、ホルムズ海峡をタンカーが安全に航行することを目標としてきた。

アメリカ政府の政策立案者は長年、中東の独裁的な将軍や国王、大統領らと友好的な関係を結ばざるをえなかった。すべては石油のためだ。

今年8月にフランスで行われたG7サミットで、ドナルド・トランプ米大統領はエジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領を「私のお気に入りの独裁者」と呼んだ。

大統領の個人的な好みはともかく、エジプトのスエズ運河は、アメリカが石油の道を守るための地域秩序に欠かせない要衝だ。

代替エネルギーや電気自動車、安価なバッテリーなどの技術が進歩するにつれて、石油が突然、価値を失う日はくるかもしれない。だが今はまだ、中東の石油資源はアメリカの重大な関心事だ。

アメリカと世界の繁栄は、石油など化石燃料の上に築かれてきた。だから、この中核的な利益に対する脅威に対してトランプ政権がきわめて消極的な対応しかしていないのは、奇妙なことに見える。

それを見て、イランの政治指導者が今なら何をやってもアメリカは攻撃してこないと思ったとしても不思議はない。今年の春から夏にかけて、オマーン湾で航行中の日本とノルウェーのタンカーが攻撃されたり、イラン革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡上空でアメリカの無人偵察機を撃墜したり、同じくイラン革命防衛隊がペルシャ湾を航行中のイギリスのタンカーを拿捕し、船員を拘束したのもその結果だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米停戦案「現状のままでは受け入れ不可」=ロシア外務

ワールド

米下院民主議員、ケネディ厚生長官を調査 鳥インフル

ビジネス

米建設支出、2月は前月比0.7%増 予想上回る

ワールド

米民主党主導州、トランプ政権を提訴 医療補助金11
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中