最新記事

気候変動

気候変動で土壌の水分吸収力が衰える?

Climate Change May Reduce Ability of Soil to Absorb Water

2019年9月17日(火)17時16分
アリストス・ジョージャウ

土が雨水を吸収できなくなったら Tim Wimborne-REUTERS

<降水量が増えると植物の根が増え、それが土壌により多くの穴を穿つようになると、土壌は多くの水分を保てなくなるらしい。すると何が起こるのか>

気候変動は、土壌が水分を吸収する力を弱める可能性があるという研究結果が、米科学誌サイエンス・アドバンシーズで発表された。

土壌に含まれる水分は二酸化炭素(CO2)を地中に閉じ込める重要な役割を果たしている。もしそこに変化が怒れば、温暖化の主な原因である大気中の二酸化炭素濃度に思わぬ影響を与えかねない。

気候変動により、世界の一部地域では降水量が増加すると見られている。これに、ほかの環境的な変化が加わって、土壌に浸透する水分量が減るおそれがあるのだという。

研究論文の共著者、米ラトガース大学の土壌科学者ダニエル・ヒメネスは、声明でこう述べた。「気候変動を受けて、降雨パターンなどの環境条件が世界的に変化している。世界の多くの地域ではそのために、水と土壌の相互作用が急激に大きく変わる可能性があることが研究でわかった」

<参考記事>2050年人類滅亡!? 豪シンクタンクの衝撃的な未来予測

この最新研究は、四半世紀にわたって実施されてきた野外実験の成果だ。ヒメネスらの研究者は、カンザス州の草原にスプリンクラー灌漑システムを設置し、土壌に降り注ぐ雨の量を人工的に増やした。そして、年間平均降水量が35%多い状態を25年にわたって継続し観察したのだ。

こうして降水量を増やした結果、土壌に浸透する水分量は21%~33%減少したという。

ヒメネスは本誌に対し、「この実験から、土壌孔隙(土壌中に網の目のように張り巡らされている大小さまざまな隙間のこと)の構造は、降水量が変わることで変化し、そうした変化はわずか10年程度で起きるという重要な知見が得られた。その変化はこれまで予想されていたよりも速い」と語った。

雨水に頼ってきた農業が危ない

「降水量が増えると、植物の根がより多く、そしておそらくは太くなることで、土壌が変化する。根が伸びて新しい孔隙をつくりだすほか、既存の孔隙をさらに大きくする」とヒメネスは話す。「われわれはまた、降水量の増加によって土壌の水分量の変動が少なくなり、土壌の膨張や収縮も減ったのではないかとも考えている。少なくともこの2つの作用が組み合わさることで、水が人工的に供給された土壌では、水分の吸収量が減るという結果につながった」

<参考記事>地球温暖化で鳥類「血の抗争」が始まった──敵を殺し脳を食べる行動も

研究者たちによると、気候変動によって土壌が変化すると、地下水源や食料生産、生態系などに多大な影響が及ぶ可能性がある。

「土壌に浸透した水は、植物が成長するためにも使われる。残りの水の一部は染み込んでいき、地下浅部の帯水層に蓄積される」とヒメネスは語る。「世界の多くの地域では、雨水だけを頼りに作物を生産している。そのため、降雨パターンが変化したり、土壌が以前ほど水を吸収できなくなったりすれば、食料生産が脅かされる」

また土壌には二酸化炭素を蓄積する力があり、地球温暖化についても驚くほど大きな役割を担っている。北極圏で急速に進む永久凍土の溶解が、温暖化効果を倍増させる可能性があると言われているのもその一例だ。

(翻訳:ガリレオ)

190924cover-thum.jpg※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米

ビジネス

米FRB、「ストレステスト」改正案承認 透明性向上

ワールド

東ティモール、ASEAN加盟 11カ国目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中