最新記事

宇宙開発

中国とインドが月面探査の先に見る野望

To the Moon and Beyond

2019年9月21日(土)12時43分
ナムラタ・ゴスワミ(インド防衛研究分析センター元研究員)

2035年までに科学研究基地を建設するための最終ステップだろう。各国に先立ち南極探査に乗り出したチャンドラヤーン2号計画だが、現在の宇宙資源をめぐる国際情勢の中で、インドも月探査計画の方向転換を図っているようだ。いずれにせよ、月の南極は産業目的の探査にとって特に重要なエリアである。

だが、インドの月の資源への注目は今に始まったことではない。

2006年9月にはISROの当時の議長、マダバン・ナイールが、野心的なチャンドラヤーン1号計画(2008年打ち上げ)について、月面に眠るヘリウム3(将来、原子炉の燃料として使える)を探すためだと述べた。ナイールはインド核開発の中心施設であるムンバイのバーバ原子力研究所で演説し、「ヘリウムの埋蔵量が重要なのは、開発する前に経済的価値を算出できるからでもある」と述べた。

インド原子力委員会のアニル・カコドカル委員長(当時)も、ヘリウム3が核燃料として役立つと主張。地球にもヘリウム3はわずかに存在するが、月のほうが有望だと指摘した。「エネルギーの必要性は日に日に高まっており、地球にある燃料にいつまで依存していられるか。地球外にエネルギー源を見つけなければならない」

航空工学の専門家でもあったA・P・J・アブデル・カラム元大統領は「宇宙探査と人類進歩の未来」と題する2008年の論文で、世界の人口は2050年に90億人に達する見込みで、その人口を養うためには宇宙太陽光発電など宇宙資源に投資する以外に解決策はないと主張している。

地球の化石燃料が底を突いた場合はなおさらだという。問題は、宇宙開発を進める国々がそうした資源を利用する技術の開発に本気で取り組んでいるなか、それらの資源の所有権問題について適切な法的枠組みが準備できているのかどうかだ。

中国の嫦娥4号が月の裏側の探査を続け、インドのチャンドラヤーン2号が月の南極付近に着陸する一歩手前までいった今、真剣かつ緊急に政策を検討しなければならない。

©2019 From thediplomat.com

<2019年9月24日号掲載>

190924cover-thum.jpg※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

エジプト大統領、トランプ氏とガザ停戦合意の強化で合

ワールド

シリア暫定大統領、サウジ訪問 ムハンマド皇太子と復

ワールド

どう米国益にかなうのか、自由貿易への影響精査必要=

ビジネス

日経平均は大幅反落で寄り付く、トランプ関税警戒 主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 5
    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…
  • 6
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 9
    トランプ「関税戦争」を受け、大量の「金塊」がロン…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中