最新記事

VR

VR体験は、鎮痛薬の使用を減らせる可能性がある

2019年8月21日(水)17時00分
佐藤由紀子

VRは、脳による痛みの生成を制限する...... VR World-YouTube

<VRの没入感を利用して、痛みの緩和などの医療目的で利用する試みが増えている......>

VRヘッドセットを装着したことはあるだろうか? 最初は違和感があっても、慣れてくると奥行きのある広大な空間に自然と没入でき、例えば海中遊泳では近づいてくるサメを思わず本気でよけてしまうようになる。

この没入感を、恐怖症の治療や痛みの緩和などの医療目的で利用する試みが増えている。VR体験が疼痛軽減の効果的な戦略になり得ることを示す研究結果が8月14日、査読付き科学メディアPLoS ONEで公開された。

VR体験は、テレビの視聴よりも約3倍痛みを軽減する

米カリフォルニア州ロサンゼルスのシーダーズ・サイナイ・ヘルスサービス・リサーチのブレナン・スピーゲル医師が発表した論文「Virtual reality for management of pain in hospitalized patients: A randomized comparative effectiveness trial」(入院患者の疼痛管理のためのVR:ランダム化比較試験)によると、VR体験は、テレビの視聴よりも約3倍痛みを軽減するという。

スピーゲル氏は、「心が没入型の体験に深く関わっている間、それ以外の刺激を知覚することは難しくなる」と書いている。「VRは、脳による痛みの生成を制限する没入型の気晴らしを作り出すと考えられる」という。

実験は、痛みの程度を11段階で評価する「NRS」で、スコアが3以上の入院患者120人を対象に行った。61人はVRヘッドセットを、59人はテレビを一定時間利用し、スコアに変化があるかどうかを調べた。

VRヘッドセットは、サムスン「Gear VR」にスマートフォンを接続した安価なものだ。体験するコンテンツは、現れる熊にボールを投げて当てるゲーム「Bear Blast」や米国の広大な自然を体験できる「Crossing Worlds」など21種類から被験者が選ぶ。テレビチームが視聴するのは、ヨガや瞑想のレッスン、健康管理方法などに関するウェルネス関連番組だ。

それぞれのチームが、1日3回、1回30分ずつコンテンツを視聴し、48時間後にNRSのスコアを計測したところ、テレビ視聴チームのスコア低下の平均は0.46ポイントで、VRチームは1.72ポイントと、VRチームの方が3倍以上低下した。

特に、NRSスコアが高い被験者ほどVR体験の効果が大きく、スコアが7以上の被験者の場合、平均で3.04ポイント下がった(テレビ視聴者の低下は0.93ポイント)。

鎮痛薬の使用を減らせる可能性がある

今回の実験では、痛みを軽減するための麻薬性鎮痛薬「オピオイド」の処方量は変えなかったが、VRの活用が促進されれば、鎮痛薬の使用を減らせる可能性があると研究者らは示唆した。

なお、実験には591人の患者に参加を呼び掛けたが、登録したのはわずか120人だったことは、患者が入院中、VRなどの新しい健康技術を使用することへの関心が低いことの現れだと指摘。医療への新技術導入には大きな期待が寄せられるが、臨床の現場では期待通りにはならないことを認識する必要があるとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中