月面にクマムシ持ち込みは問題ないのか? 「惑星検疫」の国際ルール
火星の場合は厳格な汚染防止ルールが適用される
COSPARの惑星防護ルールでは、探査対象となる天体の種類と探査の方法によってカテゴリーが分けられている。カテゴリーIIの対象は「生命の起源と化学進化のプロセスに関連する重要な関心の対象であるものの、宇宙機による汚染が将来の探査を危うくする可能性はごく限られたものにとどまる」天体を指す。水の存在など、生命の進化に関係する物質の環境はあるものの、宇宙機(探査機や宇宙船)が有機物や微生物を持ち込んでも将来の探査の意義を損なうリスクは少ない、というものだ。
そして、月はこのカテゴリーIIに属する天体だ。持ち込み汚染について何も対策をしなくてよいわけではないが、着陸(衝突を含む)候補地点や飛行計画などについて記録を保持し、ミッション終了後の報告書を公開すればよい。「きちんと準備をすれば、クマムシを持ち込んでもよい」天体だといえる。ただし、実際にべレシートが衝突した地点を含むミッション終了後の報告が必要だ。NASAのLROによる画像はこの意味で非常に重要だといえる。
これが火星のように生命が存在する可能性を持つ天体の場合、カテゴリーIVという厳格な汚染防止ルールが適用される。NASAのバイキング探査機が確立した防護基準を元に、コンタミネーション除去を行わなくてはならない。
「惑星防護」は、宇宙探査の科学的意義を守るために必要
宇宙探査機にクマムシを搭載した例は、べレシートが初めてではない。ロシアの火星衛星探査機フォボス・グルントは、同様にクマムシを搭載していた。しかし、2011年の打ち上げ直後に軌道投入に失敗し、地球を脱出する前に海に沈んだ。
フォボス・グルントが目指していた火星の衛星フォボスは炭素を含む小惑星を起源にもつ可能性がある。炭素質の小惑星は月と同じカテゴリーIIに属するためCOSPARルールから考えればクマムシ搭載は可能ともいえる。ただし、探査失敗の非常事態を考えた場合はどうだろうか? 地球に落ちるのであればよいものの、軌道投入に失敗して衛星フォボスではなく火星に衝突した場合はどうだったのかという疑問も残る。
惑星防護の措置は、宇宙探査の科学的意義を守るために必要だ。ミッションの成否と同様に関心を寄せ、探査の成果を心から喜ぶことができるよう知っておくべきといえる。