月面にクマムシ持ち込みは問題ないのか? 「惑星検疫」の国際ルール
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<クマムシが月面に「放置」されていることに問題はないのだろうか? 宇宙探査を行う際に「惑星検疫」「惑星防護」といった防護措置を行うルールが明確化されている......>
2019年4月、月に衝突したイスラエルの民間月着陸探査機「ベレシート」が搭載していた微生物クマムシは、月面で生き延びているかもしれない。Wired誌が報じたニュースが話題となっている。
クマムシが月面に「放置」されていることに問題はないのか
ベレシートは民間企業、団体による月探査レースGoogle Lunar X PRIZE(GLXP)に参加していたイスラエルのチームスペースILが開発した月着陸探査機。GLXPがレースの勝者なしとして終了した後、独自に打ち上げ米スペースXのファルコン9ロケットを調達して月探査を実施する予定だった。
2019年2月に打ち上げられたべレシートは、4月に探査の行程でも最難関といえる月着陸に挑戦。しかし、途中でスラスター(小型エンジン)のトラブルから月に降りるための減速が予定通り行われず、月面に激突して着陸に失敗した。
ベレシート探査機には、月の観測機器の他にアーチミッション財団による地球の歴史に関する3000万ページ分のデジタル資料をおさめたDVDサイズの「ルナ・ライブラリー」が搭載されている。この中には、ヒトのDNAサンプルとなる25人の毛根と血液サンプルのほか、乾眠状態のクマムシが収められていた。
NASAの月周回探査機LRO(ルナ・リコネッサンス・オービター)が4月に撮影したベレシート衝突後の月面観測写真が公開され、探査機の衝突地点と損傷の状態が明らかになった。機器は損傷しているものの、高温や極度の乾燥、放射線に強いクマムシは衝突を生き延びているかもしれない、と関係者は期待を持っていると明かした。クマムシ活動に適さない環境では代謝を止めて乾眠状態となるが、水が与えられるとまた活動を再開できる。
(参考記事)月面衝突した探査機に残されたクマムシが月で生き延びている?
真空、高温、極低温の月面で、最強生物の異名を持つクマムシが生き延びているとすれば興味深いものの、探査機衝突によりクマムシが月面に「放置」されていることに問題はないのだろうか? 月の環境で自然に水が与えられ、クマムシが活動するといったことは考えにくいが、いわば外来生物を持ち込んでしまったようなものだ。倫理的な問題はないのか、とも思われる。
アポロ計画時に生まれた「惑星検疫」「惑星防護」のルール
地球から月面に最初に持ち込まれた生物といえば、ヒトが挙げられる。アポロ計画の宇宙飛行士たちは、地球から月面に赴いて活動した大型の生物だ。アポロ11号、12号、14号の宇宙飛行士は、帰還後に3週間隔離され、月から危険な微生物を持ち帰っていないかどうか徹底的に検査された。
宇宙飛行士からすればありがたくない措置だが、3回のミッション後検査により、月から有害な生物を持ち帰り地球を汚染する可能性は極めて低いと判断された。アポロ15号以降は、こうした措置は行われなくもよいことになった。
ただしこれは、地球以外の天体から生物を持ち帰ってしまうタイプの危険に対する措置であり、地球から他の天体への汚染を懸念しての措置ではない。当時、月の生物の可能性もまだ考えられていたが、アポロ探査機が持ち帰った月面サンプルによって可能性はほとんどないことがわかった。
アポロ計画などの有人宇宙探査、また無人探査機による惑星探査が現実のものとなる時期、地球への持ち込みと地球からの持ち出し、双方向の微生物汚染の問題をどのようにするか、という国際的な枠組みづくりが行われていた。1958年に国際組織COSPAR(宇宙空間科学研究委員会)が組織され、宇宙探査を行う際に「惑星検疫」または「惑星防護」といった防護措置を行うルールが明確化された。