最新記事

医療

抗生物質の効かない耐性菌に大麻が効く?

Cannabis Might Fight Superbugs

2019年7月27日(土)16時10分
カシュミラ・ガンダー

CBDの抗菌的特性はこれまで知られていなかった Wildpixel / iStockphoto

<大麻に含まれるカンナビジオールが耐性菌対策のカギになりそうだという研究が>

抗生物質が効かない「耐性菌」の広がりを食い止めようと科学者が知恵を絞るなか、意外な救世主候補が現れた。大麻(マリフアナ)成分が、抗生物質も効きにくい細菌に有効である可能性が明らかになったのだ。

オーストラリアのクイーンズランド大学分子生物科学研究所のマーク・ブラスコビッチ上級研究員らの研究チームによると、細菌に効果があるのは大麻に含まれるカンナビジオール(CBD)。高揚感をもたらすことはなく、リラックスや痛み緩和の効果があるとされる成分だ。抗生物質に強い耐性を示す細菌を含め、実験で使った全ての菌株に効き目があったという。

さらに、CBDに20日間さらされても細菌は耐性を獲得しなかった。一般的な抗生物質なら、生き残る菌が出現する時期だ。研究チームが用いたのはグラム陽性菌と呼ばれるもの。院内感染の代表的な原因菌である黄色ブドウ球菌、肺炎レンサ球菌、そして免疫システムが弱い人なら死に至る危険もある腸球菌だ。

マウスを使った予備実験では、CBDが皮膚感染に効果があると示された。「どのような仕組みかまだ分からないが、他の抗生物質への耐性を獲得した細菌に効いたことを考えると、CBD特有の作用があるのだろう」と、ブラスコビッチは分析する。

「現時点では、皮膚表面に局所的な効果があることしか分かっていない。実際に役立てるには、肺炎を含む全身性感染症など、経口投薬や静脈注射が必要な病気にも有効だと明らかにする必要がある」

広い意味での耐性菌対策を考えれば、あまり研究されていない物質にも抗生物質として使えるものがある可能性が示されたと言える。研究の成果は6月の米微生物学会の年次総会で発表された(ただし、査読付き学術誌には掲載されていない)。

焦って摂取しても危険

オーストラリアのクイーンズランド州政府は大麻成分の利用を規制しているため、研究室でCBDを扱う許可をもらうのに苦労したとブラスコビッチは振り返る。天然の大麻由来ではなく、「グレーゾーン」に当たる合成CBDを使用したが申請は必要だったという。

では、抗生物質を嫌う人が大麻由来の民間療法を利用するのはどうなのか。「それは非常に危険だ」と、ブラスコビッチはクギを刺す。「今回の実験はほとんど試験管内でのこと。人間の感染症に応用できるかについては、まだまだ検証が必要だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中