原油高騰とタンカー危機、混迷するイラン情勢の行方を読み解く2つのキーワード
供給余力も楽観は禁物
今の緊迫したイラン情勢は2018年5月、トランプ米政権が核合意を離脱すると表明したのが発端だ。米国は11月に禁輸措置に踏み切った。日本など8カ国・地域は措置の適用が除外されて原油取引を行ってきたが、トランプ政権が19年4月に適用除外の撤廃を公表した。一連の動きにイラン側は強く反発、核合意に反してウラン濃縮活動を再開した。
禁輸措置やその適用除外撤廃、タンカーへの攻撃などは、いずれも原油価格を押し上げる要因となる。適用除外の撤廃を公表した翌日の4月23日、国際的な指標となるニューヨーク商業取引所(NYMEX)原油先物相場は、18年10月以来の1バレル66ドルを付け、年初来高値となった。ただその後は下落傾向となり、19年7月18日現在50ドル台後半で推移している。今のところ急騰と呼べるほどの上昇はなく、市場は冷静さを保っているように見える。
現在、原油価格の上値を抑えているのは大きく2つ、米国の生産量の多さと、中国の景気減速に伴う需要の減少だ。
最新のEIA(米エネルギー省エネルギー情報局)の報告書によると、シェールオイルの増産を背景にアメリカの原油生産量が18年にロシアを抜き、世界首位になった。アメリカの供給態勢が盤石だとの安心感から、原油価格は上値を追う展開になりづらい。
そしてもう1点の中国の景気減速である。アメリカとの貿易摩擦が長引いており、製造業の出荷減といった形で響いている。中国国家統計局が15日に発表した2019年4~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比6.2%増となり、四半期ごとのデータを追える1992年以降で最低だった。中国の不振が世界経済にも影を落としている。
こうした状況下、IEA(国際エネルギー機関)が12日に発表した原油の需給動向によると、2019年上半期は石油供給が需要を1日当たり90万バレル上回っていたとされる。米テレビ局CNBCによると、IEAの石油セクターの責任者が20年の見通しについて「かなりの供給過剰」(considerable oversupply)と指摘。だぶつく状況が続きそうだ。
それでも決して楽観視できないのが原油相場である。2008年に147ドルの史上最高値を付け、その後30ドル台まで急落するといった展開を当時、誰が予想しただろうか。まして中東情勢が混沌とする今である。予断を持つべきではないだろう。
市場の乱高下はもちろん、核合意の破綻や、軍事衝突といった最悪のシナリオは避けねばならない。核合意当事者の英仏独は合意から4年となる7月14日に共同声明を出し、米イランに対話の再開を促した。英BBCによると、欧州連合(EU)外交責任者のフェデリカ・モゲリーニも15日、イランのウラン濃縮活動に関し、違反は深刻ではなく後戻りは可能との見方を示している。
平和裏に解決する落しどころは必ずあるはずだ。
[筆者]
南 龍太(みなみ・りゅうた)
「政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。また、流通や交通、電機などの業界、東日本大震災関連の記事を執筆。現在ニューヨークで多様な人種や性、生き方に刺激を受けつつ、移民・外国人、エネルギー、テクノロジー、Futurology(未来学)を中心に取材する主夫。著書に『エネルギー業界大研究』(産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。
ryuta373rm[at]yahoo.co.jp
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