最新記事

インタビュー

「貧困の壁を越えたイノベーション」湯浅誠がこども食堂にかかわる理由

2019年7月15日(月)12時15分
Torus(トーラス)by ABEJA

Torus 写真:西田香織


地域の住民が子どもたちに食事を提供する「こども食堂」が急速に増えている。NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の調査(6月末発表)によると、全国に3718カ所。3年前の12倍という勢いだ。

「貧困問題の世界に起きたイノベーション。自分が越えられずにきた壁を越え、インフラになりつつある」。支援にかかわってきた社会活動家・湯浅誠さんは、そうたとえる。

30年前、路上生活者の支援を始めて以来、どう訴えても越えられずにきた、貧困を取り巻く「壁」。

それは人の思考の中にあるという。

この春、東京大学先端科学技術研究センターの人間支援工学分野に、特任教授として着任しました。テクノロジーを使って人間関係を支援していく分野と縁ができたので、10年ほど前に考えた道具を作れたらいいな、と思っています。

内閣府の生活実態調査を見ると、月1-2回しか友人や家族と話さない人が10%ほどいます。日常会話の有無はジェンダーによる差が大きくて、女性はお茶飲み話で盛り上る一方、男性、特におじいさんたちが盛り上がらない。だけど、外歩きに励むおじいさんは割といる。万歩計をつけ「きょうは1万歩超えた、超えなかった」と盛り上がっている。

万歩計をつけて歩くのが大好きなら、1日しゃべった言葉をカウントする「万語計」があったらどうなるだろう? 地域の交流サロンに出向かなかった人が「行ってしゃべってこようかな」とならないだろうか、と。

万語計は、地縁、血縁のつながりを失った社会の現状を描いたNHKスペシャル「無縁社会~"無縁死" 3万2千人の衝撃~」(2010年)が放映されたころに思いついたアイデアです。当時は音声認識技術がそこまで発達してなかったので諦めましたが、いまなら実現できるかもしれない。

torus190715yuasa-2.jpg

歩数を稼ぐ機械があるように、チャットボットで会話を増やす方法があるかもしれない? なるほど、健康づくりのためだけならチャットボットとの会話でいいのかもしれない。

でもやっぱり、私は人に会ってほしいんですよね。

健康寿命を伸ばそうと、政府も自治体も健康づくりのプログラムを作っています。でも、どれも自分のためにがんばれる人を想定して作られている。自分でがんばれる人はそれでいい。でも、自分のためにがんばる気力はないけれど、誰かが自分を待っていてくれるから動く、という人は?

だから「こども食堂」みたいな場所が大事だと思っています。子どもがそこで待っているという思いが、さあ出かけなくちゃ、と背中を押してくれると思うから。

torus190715yuasa-3.jpg

6月末に「むすびえ」が公表しましたが、こども食堂はこの春の時点で3718カ所。3年で12倍。昨年からの1年だけで1400カ所増えました。メディアで大きく取り上げられる時期は過ぎたにもかかわらず、過去最高の増加率です。

こども食堂って本当にイノベーションだなと思ってます。

「子ども」と「食」という言葉自体に、人々を惹きつける妙があるからでしょうが、この30年、貧困問題にかかわった私が越えられないでいた「壁」を、こども食堂はあっという間に越えられた。

ここでいう「壁」は、私たちの思考の中に存在しているものです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 

ワールド

インドのロシア産石油輸入、減少は短期間にとどまる可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中