最新記事

極右

ドイツにネオナチ・テロの嵐が来る

Germany Has a Neo-Nazi Terrorism Epidemic

2019年7月11日(木)13時45分
ピーター・クラス(ライター、在ベルリン)

リュブケ殺害事件と同種の襲撃事件は近年多発している。15年にケルンのヘンリエッテ・レーカー市長、17年には西部アルテナのアンドレアス・ホルシュタイン町長が刃物で切り付けられた。レーカーは周辺にいた数人と共に重傷を負った。ホルシュタインはトルコ料理店で食事中に襲われたが、店員らが犯人を取り押さえ、軽傷で済んだ。

ライプチヒのブルクハルト・ユング市長によると、国内では政治的動機による政治家への犯罪が1日平均約3件起きているという。地元で活動する政治家が狙われやすいそうだ。

右翼の暴力の阻止や実行犯の逮捕がなかなかできない理由は、政府内にネオファシズムの大義に共鳴する向きが多いからだと結論付けることはたやすい。だが、現実はもっと複雑だ。

右翼の組織はさまざまな構造で散在し、単独犯なのか集団による共謀なのか見分けることが難しい。ネット上に興奮した怒りの表現があふれるなか、幻想ではない本物の脅威を区別することも困難だ。

あらゆる形態の右翼活動を取り締まるべきだという声もあるものの、そこまでやるとかえって過激化を加速させるという見方もある。再教育の試みは見込みがありそうだが、必要のない人を対象にしてしまう恐れもあるとシュルツは指摘する。

メルケル政権が実効ある対策を取るつもりなら、単なる警察力の増強だけでなく、もっと抜本的な対策が必要だ。この問題は与党CDUを分裂させる可能性も秘めている。

党内の右派勢力は、移民・難民危機でアンゲラ・メルケル首相主導の寛容な姿勢にいら立ちを募らせてきた。今度は、党内のリベラル派がリュブケ事件をめぐって保守派が加担したと騒ぎ立てている。一方で連立政権を支える中道左派の社会民主党(SPD)は、連立を組む過程でCDUに妥協する姿勢を見せたことに多くの有権者が失望し、支持率が低下している。

CDUが行き詰まりを打開したければ、単に過激派のネットワークを一掃するだけでは足りない。右派の怒りの方向性を変える何かが必要だ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年7月16日号掲載>

20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。


ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 8
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中