最新記事

シリア

アメリカに見捨てられたISIS掃討戦の英雄たち

After ISIS

2019年7月12日(金)11時48分
ケネス・ローゼン(ジャーナリスト)

シリア北西部の5%までを支配するに至ったテロ組織アルカイダの系列組織、シリア解放機構も脅威だ。

点在する小さな武装勢力は、アフガニスタンやアフリカ、フィリピンのISIS関連組織同様に、 将来の紛争の種になるかもしれない。

「アルカイダにとって、シリア戦争の経験はアフガニスタンと同じくらい有益なものになる」と、シリア問題に詳しい米軍事研究所のジェニファー・カファレラは語っている。「シリアは第2のアフガニスタンになる」

現時点で、クルド人はあらゆる選択肢を検討しているようだ。クルド人の代表は12月に、アサドと同盟を結ぼうとする動きも見せた。停戦と引き換えに、何らかの自治権獲得を目指す彼らの戦いを諦める動きだ。一方で彼らはアメリカに期待しているが、あいにくトランプ政権の出方は予測不能だ。

ウォール・ストリート・ジャーナルは3月中旬、米軍指導者たちがシリアに1000人規模の部隊を駐留させる計画を立案したと報道した。

それはアメリカ、ヨーロッパ、トルコ、クルドの指導者の間で、シリアの「安全地帯」に関する協議が長引き、意見の不一致があったためだろう。だが発表から数時間後、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長は、報道が「事実の点で不正確」だと論評した。

ダンフォードの声明には、「われわれは米軍の残留という大統領の指示を引き続き実行している」とあった。

シリア国民のアメリカに対する思いは複雑だ。ハジン出身の30歳の農民アブドゥラ・サリムのように、クルド人部隊だけでも勝てると考える人もいる。「ISISが戻ってきたり、トルコの侵略者がやって来たら、ここの部族が追い返す」。彼はそう言った。「アサド政権が攻めてきても同じことだ」

だが不安を漏らし、米軍を頼りにする人々もいる。シリアの北部マンビジに暮らす電化製品の営業マン、ワルシン・シェコ(27)は内戦の激化でシリアから脱出し、2月に帰国するまで4年間トルコに住んでいた。

彼の住む町の南側にはアサド政権の支配地域があり、西側と北側にはトルコの支配地域がある。この町はまた、クルド人の多くが住んでいるロジャバへの入り口にもなっている。

「私のいとこたちはトルコに電話をかけてきて、マンビジの生活状況はいいし、安定している、悪い人はいないと言っていた」。彼は自分の店のガスコンロで手を温めながらそう語った。

「帰国後の今になって、アメリカ人が去るという話を聞いて、率直なところ、私はとても悲しくなった。いとこには、私たちにこれから何が起こるか様子を見ようと言った。アメリカ人がいる今は、状況はいい。ここは安定しているし、人々はいい職を得て、真面目に働いている」

マンビジで店を営むカミス・モハメド(42)も、アメリカはクルド人を保護するために滞在しなければならないと主張する。「事実として、アメリカがここにいる限りトルコは私たちに手を出せない」からだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中