トランプ型かリベラル型か、パンドラの箱が開かれた時代のリーダー論
トランプ米大統領(右)と正反対、アメリカで史上最年少の大統領を目指すピート・ブーティジェッジ(左) From Left: Brian Snyder-REUTERS, Leah Millis-REUTERS
<これまで語られてきたリーダー像に欠如していたものは何だったのか、真のリーダーとはどのような素質を備えた人物なのか。リーダーシップ教育論の分野で権威的な評価を受けるサム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)に、その答えを求めた>
いつの時代も人々はリーダーを語り、リーダーに希望を抱き、リーダーに失望し、それでも夢を託し続けてきた。
期待と裏切りのサイクルは現在も変わっていないが、今あらためてリーダー論を語る必要が出てきている。それはドナルド・トランプ米大統領の登場により、ポリティカル・コレクトネスというパンドラの箱が開かれたからだ。トランプに続けと各国でポピュリスト的指導者が台頭し、配慮や遠慮は悪とばかりに排斥的な直言を繰り返す指導者が世界に誕生している。
ただ、弱者や少数派に不寛容な国家指導者を非難するのはたやすいが、といってリベラルで包容力ある首脳が必ずしも国家運営に優れていたわけではない。
だとするならば、われわれが望むべき真のリーダーとはどのような資質を備えた人物なのか。これまで語られてきたリーダー像に欠如していたものは何だったのか。
ニューズウィーク日本版の最新号(6月18日号)では「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集を組み、その答えを米ジョージタウン大学のサム・ポトリッキオ教授に求めた。
ビル・クリントン元米大統領をはじめ、アメリカ行政の中枢機関である最高裁や国防総省、財務省やCIAのトップ、そして数々の各国首脳を輩出してきた全米有数の名門校ジョージタウン大学。そこで教鞭をとるポトリッキオは、29歳の若さで「全米最高の教授」に選ばれるなど、リーダーシップ教育論の分野で権威的な評価を受けている。同校だけでなく、毎年30カ国を訪れ各地のエリート校でも精力的に講演を行う。
ポトリッキオに出会ったのは2015年6月。筆者がジョージタウン大学リーダーシッププログラムに参加した時だ。翌年の大統領選挙を控えて、アメリカ政界では候補者選びが話題の中心だった。プログラムでは連邦制について講義をしていたポトリッキオに対しても、当然のように大統領選の見通しについての質問が相次いだ。
当時の風潮では民主党のヒラリー・クリントンが大本命。内部分裂状態だった共和党は、勝利はおろか候補者の選定もままならない状態で、誰もその後の展開を予想する人はいなかった。ポトリッキオは丁寧に両党の状況を分析しながら、こう展望を述べたことを鮮明に記憶している。「第3勢力が出てくる可能性を否定できない」
大統領選に勝利したトランプは共和党候補者だったため、形式上は第3勢力ではなかった。ただ、トランプの政治思想やマニフェストは従来の保守路線と大きく異なり、いわゆるティーパーティー(共和党内の草の根保守)のスタンスとも違った。その意味で、トランプは実質的に第3勢力と言っても過言ではない。