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50代の半数はもう手遅れか──生活水準を維持可能な資産水準を年収別に推計する

2019年6月12日(水)16時30分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

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以上の前提を基に、50代の世帯を4つのグループに分類する。

グループ1は、退職時の退職給付も含めると、既に十分な資産を保有している世帯である。

グループ2は、現在と同程度の収入維持が期待できる今後5年間は所得の10%(8)を貯蓄に回し、かつ今後10年間通じて現在保有する資産も含め年率2.5%で運用すれば、十分な資産を準備できる世帯である。順調に頑張れば生活水準が落ちないグループといえる。

グループ3は、現在と同程度の収入維持が期待できる今後5年間は所得の10%を貯蓄に回し、かつ今後10年間通じて現在保有する資産も含め年率2.5%で運用すれば、退職前後での生活水準の低下を10%(9)未満に押さえられる世帯である。順調に頑張っても多少の生活水準低下が避けられないグループと言える。

グループ4は、現在と同程度の収入維持が期待できる今後5年間は所得の10%を貯蓄に回し、かつ今後10年間通じて現在保有する資産も含め年率2.5%で運用しても、退職前後での生活水準が10%以上低下する世帯である。よほど頑張らない限り手遅れであるグループである。

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その結果、既に十分な資産を保有している世帯(グループ1)の割合は20%である。順調に頑張れば生活水準が落ちない世帯(グループ2)も含めると、36%の世帯は退職後も現在と同程度の生活水準維持が可能である。一方、よほど頑張らない限り手遅れである世帯(グループ4)の方が、46%と多い。

次に、年間年収別に各グループの割合を確認する(図表5)。既に十分な資産を保有している世帯(グループ1)の割合は、年間年収の低い世帯ほど大きい傾向がある。

一方、よほど頑張らない限り手遅れである世帯(グループ4)の割合も、年間年収の低い世帯ほど大きい傾向がある。年収が500万円未満の世帯が最も高く54%もあるが、年収1,000万円以上の世帯でも40%を超える。

なお、ボストンカレッジの退職研究センターが退職後10%以上も生活水準の低下が見込まれる世帯の割合を年収段階別に算出しているが、同様の傾向が確認できる(10)。

4――まとめと今後の課題

当レポートでは、退職前の年間収入の状況によって退職後に期待できる可処分所得も、満足できる生活水準も異なることを考慮し、老後のために用意すべき資産額を退職前の年間収入別に推計した。その上で、50代を資産の準備状況に応じて4つのグループに分類し、その割合を年間収入階級別に確認した。

その結果、50代のおよそ半数は退職後に10%以上もの生活水準低下が見込まれ、最も年間収入の高い世帯でもその割合が41%にも及ぶことが分かった。

――――――――
8 金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成30年調査結果)によると、50代の平均貯蓄率は9%である
9 ボストンカレッジの退職研究センターが算出するナショナル・リタイアメント・リスク・インデックスにおけるリスクの定義、退職後に生活水準が10%以上低下するに準拠
10 研究員の眼『貯蓄額よりも貯蓄率-リタイアメント・リスクについて考える』(2019年3月18日)

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