50代の半数はもう手遅れか──生活水準を維持可能な資産水準を年収別に推計する
2──老後の生活のために用意すべき金額を年間収入別に推計する
老後の生活のために用意すべき金額を推計するには、退職後の可処分所得と目標とする退職後の消費支出の見積もりが必要不可欠である。
1|退職後の可処分所得を推計する
まず、退職後の可処分所得を見積もる。無職の高齢夫婦世帯の主な収入は公的年金であり、実収入全体のおよそ85%(総務省家計調査報告(2018年平均結果の概要)、以下家計調査)を占めるため、期待できる可処分所得の見積もりには、公的年金のみを考える。実際は、勤務先によっては企業独自の退職年金があり、中には個人年金に加入している人もいる。更には、利子や配当所得及び賃料収入など保有資産に帰属する収入も考えられる。
しかしながらこれらについては、社会保障給付のみを基準に算出した可処分所得と消費支出の差を埋めるための原資(老後の生活のために用意すべき資産金額)として取り扱う。
夫は65歳で退職し、夫婦は共に65歳から公的年金を受給するものとする(2)。夫は老齢基礎年金(満額)に加え年間収入に応じた老齢厚生年金を受給する一方、妻は老齢基礎年金(満額)を受給するものとする。但し、夫が先に死亡した場合、妻は自身の老齢基礎年金に加え、遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の75%)を受給する。夫の老齢厚生年金は加入期間と加入期間を通じた収入水準に依存する。加入期間は43年とし、加入期間を通じた収入水準は年齢階層別の平均給与額の傾向(図表2)と現在の年間収入を基準に推計する。推計にあたっては、加入当初の年間収入は20~24歳の平均給与とし、その後33年間毎年、収入が同額上昇し現在の年間収入に至ったと仮定する。続く5年間は現在の年間収入と同額、最後の5年間は現在の年間収入の75%程度と仮定する3。
最後に、上記の仮定の下で推計される公的年金の総額に応じた税金や社会保険料を控除し、退職後の可処分所得を見積もる。
2|退職後の消費支出
次に退職後の消費支出であるが、退職後も現在と同程度の生活水準を維持すると仮定する。具体的な消費支出額は、現在の年間収入に応じた年間収入別消費支出から教育費を控除した値を基準とする。夫婦の一方が死亡した後、同程度の生活水準を維持するためには、死亡前の消費支出の70%が必要と仮定する(4)
。また、退職時までに用意できた金額別に、生活水準がどの程度下がるかを把握できるよう、生活水準が低下する4パターン(▲5%、▲10%、▲15%、▲20%)で計算する。
――――――――
2 夫婦は同年齢
3 但し、加入期間各年の年間収入が、標準報酬月額及び標準賞与額から想定される金額を超える場合、想定した金額に置き換える
4 相対貧困率やジニ係数の算出の際に利用される等価可処分所得と同様。