最新記事

アメリカ社会

銃乱射でPTSDを受けるアメリカの医師たち 銃反対運動が救いに

2019年5月21日(火)14時10分

5月15日、全米ライフル協会(NRA)との最近の衝突が、銃撃事件の被害者治療にあたる医師たちの一部に、自らのトラウマを癒す方法を提示した。写真は4月、ニュージャージー州のルトガーズ大病院で撮影に応じるステファニー・ボン医師。提供写真(2019年 ロイター/ Keith Bratcher/Rutgers New Jersey Medical School)

全米ライフル協会(NRA)との最近の衝突が、銃撃事件の被害者治療にあたる医師たちの一部に、自らのトラウマを癒す方法を提示した。それは銃暴力への反対活動に参加することだ。

銃創を手当てした外科医が発症する心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、イランやアフガニスタンの戦争に従事した兵士と同レベルとされる。外傷外科医らは、思ったことを発言することで、手術室に次々と運び込まれる被害者の治療にあたることが生む怒りや絶望に対処しやすくなると感じている。

「啓発活動への参加は、燃え尽き症候群に対処する1つの方法だ」。フィラデルフィアのテンプル大学病院で外傷外科医を務めるジェシカ・ベアード医師はそう語る。

医師たちとNRAの衝突は昨年11月、米国内科学会(ACP)が銃撃による死傷者防止と米国の死亡率について論文を出したことがきっかけだった。NRA側がこれに対し、「偉ぶった銃反対の医者たちは、自分たちの持ち場からはみ出るな」とツイートで警告したのだ。

これを受けて、ネット上で反発が沸き起こった。

全米の外傷外科医たちが、銃撃被害者を手術した後の血だらけの手術着や手術室の写真をソーシャルメディアに投稿し、「#ThisIsOurLane(これはわれわれの持ち場だ)」というハッシュタグを付けて抗議したのだ。

運動は広がった。ペンシルバニア州では、医師らが州議会に政策変更を働きかけるグループを作った。カナダでも、「銃からの保護を訴える医師たち」というグループが結成され、4月にデモ活動を行った。

医師たちの行動を、2018年2月に17人が犠牲となった米フロリダ州パークランドの高校で発生した銃撃事件を受けて、銃規制を訴える全米規模の抗議活動を主導した同校生徒になぞらえる専門家もいる。

「#ThisIsOurLaneの投稿は、外傷外科医が受けている銃暴力の影響を直接伝えた。銃撃被害者の治療によって受けているトラウマを訴える、われわれ流のやり方だった」と、ベアード医師は言う。

多くの医師にとってこれは、科学的または政治的に銃暴力と戦うため、行動を起こすきっかけになった。

ベアード医師は研究を選んだ。死や苦しみを軽減させるための公衆衛生上のテーマとして、銃暴力を取り上げた。

4月に公表した同医師の研究によると、フィラデルフィアで外傷治療に対応している3病院には約2カ月半で、被害者4人以上が同時に運び込まれる無差別銃撃事件に相当する数の銃撃被害者が運びこまれている。

もっと政治的なやり方を選んだ医師もいる。

ACPは、銃購入者の身元確認を義務付けたり、家庭内暴力をふるう購入者のチェックを厳しくするなどの「合法火器の購入に対する適切な規制」を含めた対策を支持している。

やはりテンプル大病院で外傷外科医を務めるゾー・メア医師は、「銃傷害防止を目指す外傷センター連合」の設立にかかわった。同連合では、ペンシルバニア州議会に対し、政策変更を訴えている。

同連合の最初の活動は、法的に「危険」とみなされる人物から当局が銃を没収できるようにする法案を支持することだった。

メア氏は、米国の年間4万人近くに上る銃撃犠牲者の多くは防ぐことができた、という考えが、活動の原動力になっていると話す。

「現実的に予防可能なこの公衆衛生上の危機と戦うために、私を奮い立たせるこの力は、確実に私を『燃え尽き症候群』から守ってくれている」と、メア氏は言う。

NRAは、こうした研究は、米憲法修正第2条で保証された銃を保持する権利を制限するために行われているとして反対している。NRAは、コメントの求めに応じなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中