最新記事

アメリカ社会

銃乱射でPTSDを受けるアメリカの医師たち 銃反対運動が救いに

2019年5月21日(火)14時10分

倫理的なけが

医療現場は長年、燃え尽き症候群の影響を受けてきた。一部の医師が「倫理的な負傷」と呼ぶこの症状は、自分自身との断絶や、感情の疲弊、達成感の低減などを感じること、と定義されている。

また、自分が代わりに外傷を受けたように感じたり、同情疲れなどの症状が出ることもあり、これらは看護師や他の手術室スタッフ、救急隊員など、外傷治療に携わる全ての医療関係者が経験し得るものだ。

外傷外科医の40%にPTSDの兆候が出ており、15%はPTSDの診断基準を満たしていると、2014年の米国外傷外科学会の学会誌による調査は指摘している。

これは、退役軍人省が報告した15.7%に上るイラクやアフガニスタンの従軍兵のPTSD該当者に匹敵する数字だ。

医学誌によると、400人の医師が毎年自殺しているが、これは1大学の医学部1学年に相当する数だ。

近年では、兵士や記者、その他の医療関係者が、悲劇的な出来事を目撃したことによる精神的な影響に対して、よりオープンに立ち向かうようになっている。だが、外科医は遅れている。

「彼らは、もう無理だ、精神的に限界だ、と口にする最後の人々になるだろう」と、ニューヨークにあるイエシバ大学のナンシー・ベッカーマン教授は指摘する。

ニュージャージー州のルトガーズ大病院の外傷外科医で活動家でもあるステファニー・ボン医師は、手術室で外傷を見ることで、ニュースで銃撃事件が報じられると同時に被害者搬入を知らせる呼び出し音が鳴るなどの日常のストレスがさらに増していると話す。

「どんなに現状に立ち向かおうと努力しても、次々と患者が運び込まれ続けることに、無力感がある」と、ボン医師は話した。

Daniel Trotta
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

[ニューヨーク 15日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中