最新記事

アレルギー

気候変動によって花粉症が重症化し、長引く傾向にある、との研究結果

2019年5月27日(月)18時00分
松岡由希子

<26年間にわたって花粉飛散データと気象データを分析した国際研究チームは、「気候変動に伴う二酸化炭素の増加や気温上昇は、花粉症を重症化させ、長引かせる要因となりうる」と警告している>

花粉症は、スギやヒノキ、ブタクサなどの植物の花粉に対してヒトの免疫系が過剰に反応し、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状を起こすというものだ。日本で花粉症を有する人の割合は29.8%で、米国でも過去1年に花粉症で受診した18歳以上の成人が1990万人にのぼり、人口の8.1%を占めている。

花粉の飛散期間が長くなり、飛散量が増えている

米農務省農業研究局(USDA-ARS)ベルツビル農業研究センターのルイス・ジスカ博士を中心とする国際研究チームが2019年3月に医学雑誌「ランセット・プライネタリーヘルス」で発表した研究論文によると、最低気温や最高気温の上昇に伴って、北半球で花粉の飛散期間が長くなり、飛散量が増えていることがわかった。

研究チームでは、米国、カナダ、フランス、ロシアを含む北半球の12カ国17の観測地点を対象に、平均26年間にわたって花粉飛散データと気象データを分析した。その結果、71%にあたる12地点において花粉の年間総飛散量が増加し、65%にあたる11地点で花粉の飛散期間が平均0.9日延びた。最低気温や最高気温の上昇と飛散量の増加において有意な相関が認められたほか、霜のない日が増えるほど、花粉の総飛散量が増え、飛散期間も長くなった。

気候変動の作用によってアレルギーや喘息が悪化するおそれがある

気候変動に伴う二酸化炭素の増加や気温上昇は、花粉症を重症化させ、長引かせる要因となりうる。なぜなら、二酸化炭素濃度の上昇が植物の成長を促進すると、花粉がより多く産出され、気温上昇によって、生育期が長くなり、花粉の飛散期間が延びると、人々が花粉に曝露する期間も長くなるからだ。

研究論文の筆頭著者であるジスカ博士は、米国の科学者団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」の公式サイトで「気候変動の作用によってアレルギーや喘息が悪化するおそれがある」と警告し、気候変動と人々の健康とのつながりを詳しく解明する必要性を訴えている。

2012年に発表された研究結果でも「気候変動によって花粉の産出量が著しく増え、2040年までにその量は倍増する」ことが示されているほか、2014年11月には「二酸化炭素とオゾンの大気中の濃度が上昇するにつれて、近い将来、草花粉の飛散量が2倍になる」との研究結果が明らかとなっている。花粉症を長引かせたり、悪化させたりしないための抜本的な対策として、気候変動の緩和も重要なポイントのひとつといえそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中