大卒資格はコストに見合うか? 米国をむしばむ学費ローン
5月9日、2007-09年の金融危機のさなかでも、米国では大卒者の失業率は5%前後だった。写真は米バージニア州リバティ大学の卒業式で、ひとり「アメリカを再び偉大に」のキャップを被った学生(2019年 ロイター/Jonathan Drake)
2007-09年の金融危機のさなかでも、米国では大卒者の失業率は5%前後だった。大学まで進学しなかった人たちの半分程度にとどまり、高等教育の価値を示していた。
だが、話はそこで終わらなかった。学費ローンの残高は総額1.5兆ドル(約164兆円)を突破、大半はこの10年間で累積した。
米連邦準備理事会(FRB)が9日に開いたイベントに参加した研究者らは、学歴が将来の収入と中流階級への道を保証するという常識が、この膨大な借金によって崩れ去ろうとしていると懸念を表明した。
登壇したシカゴ連邦準備銀行のエバンス総裁は、借金、つまり市場価値の低い学位に対する過払いなどの問題が、高等教育投資への「下振れリスク」になっていると指摘。FRBは高度人材の必要性を常々主張しているが、そこの経済学博士が異例の批判を展開した。
「学生たちは大学にそこまでの価値があるのか疑問に思うのではないか」、「さまざまなリスクが積み重なり、マイナス面の方が勝ってしまうことを心配している」とエバンス氏。とりわけ最近入国してきた移民や年齢が高めの人、一家の中で初めて大学に進学した人など、「非伝統的な」学生たちへの影響を懸念した。
5分の1がローン滞納
イベントは中流階層の未来をテーマに、2日間にわたって開催された。米国では雇用、時給、学費ローンの問題が注目されており、2020年の大統領選の重要課題となることが予想される。
大統領選の民主党候補者らは、公立大学の授業料無償化から学費ローンの全面的な返済免除、就職先の保証や最低賃金の引き上げまで、さまざまな政策を提案している。一方のトランプ大統領は、関税、貿易、税務政策など、相対的に学歴が低めの人たちへの機会を回復すると大統領が主張する政策に焦点を置いている。
ここに集まった研究者らにとって学費ローンの問題は、本来なら永久に有効なはずの「教育投資は回収できる」という政策決定に反する不穏な変化だ。ブルッキングズ研究所のフェロー、アダム・ルーニー氏は、これを「アメリカンドリームの中核的信条」と語る。
会場では、まだその信条に変わりはないようだ。
1960年代から減少傾向にある成人男性の雇用率について聞かれたメリーランド大学の経済学者メリッサ・キアニー氏は、「大卒の人の数を増やすべき。大学を卒業した人たちの方が雇用率が高いことは事実だ」と述べた。
一方で研究者らは、学費ローンの難題も認識している。
彼らは、活気のない中流層の収入をどう回復させるかや、貧困層が中流層に上がる機会が減りつつあることなどを幅広く議論した。
パウエルFRB議長は、運よく恵まれた家庭に生まれなかった人たちの経済的成果がこれまでになく限られつつある米国において、こうした問題の解決は「きわめて重要だ」と語った。
それにも関わらず、経済的成果をあげるための大学進学は、今や債務とセットで語られている。特に人種的、民族的なマイノリティーにとっては、進学することが生涯賃金の減少を意味する可能性がある。
米国の大卒者は増加を続け、25歳以上の人口の3分の1を占めるが、それは高騰する学費やオンライン講座の増加などとともに拡大した学費ローンプログラムに支えられている。
ブルッキングズのルーニー氏によると、4年生大学の学費ローンは平均3万5000ドルで、4400万人が利用している。より返済プランが高額になるのは大学院生だという。また、2年制大学で準学士号を取得したり教育訓練コースを履修しようとローンを組んだ学生は、卒業後の賃金が低く、返済に苦労することもある。
ニューヨーク連銀によると、大学に進学した学生のうち約半数がローンを組んでおり、2017年時点で5分の1は返済が遅れていた。