最新記事

中東

リビア民兵組織将軍の、裏目に出たトリポリ進軍作戦

Haftar's Miscalculated Attack

2019年5月4日(土)14時20分
ジェーソン・パック(コンサルティング会社「リビア・アナリシス」創業者)、マシュー・シンケズ(同研究員)

LNAのハフタル将軍(写真中央)は、最近政治力も付けていて戦わずして権力を握る道もあったはずだ Esam Al-fetori-REUTERS

<内戦の雄として政治力も兼ね備えたハフタル将軍が、首都陥落という勲章欲しさに勇み足を踏んだ>

東西両政府の分断が続くリビア内戦に新展開があった。東部を支配する民兵組織「リビア国民軍(LNA)」のハリファ・ハフタル将軍が、西部の「国民合意政府」が支配する首都トリポリを武力制圧すると宣言したのは4月4日のこと。早くも複数回の空爆を行い、住民2000人以上が市外へ脱出している。

なぜハフタルはこの時期に軍事攻勢を選んだのか。彼の率いるLNAは国内最強の武装勢力だが、最近のハフタルは政治力も付けていて、戦わずして権力を握る道もあったはずだ。4月14~16日に予定されていた国民会議(国連主導で内戦終結と大統領選挙に向けた枠組みを決める会議)では、最強の政治指導者と認知される可能性が高かった。なのに彼は首都への進軍を決めた。

およそ合理的な戦略とは言えない。ハフタルは強さを誇示したい幻想に酔っている。だから選挙や交渉ではなく、戦闘なり策略なりで国家指導者の座を得たいと思っている。

過去にハフタルと会ったことのある外交官やジャーナリストに聞いてみればいい。

アメリカ政府のリビア特使だったジョナサン・ワイナーは、「彼とは16年に会ったが、『この国の政治家は信用できない、まだリビアに民主主義は早い』と言っていた」と語る。「とにかく軍事的な勝利を積み重ね、自分以外の選択肢がなくなるような状況を生み出す。それがハフタルの戦略だ」

何度もハフタルに取材したというジャーナリストも同意見だ。「15年には東部マルジュの司令部で虚勢を張っていた。自分は大統領になるだけでなく、国内のイスラム原理主義勢力を皆殺しにしてやる、と」

油田の守り神への期待

平和的な政権交代を実現するに適した人物の言葉とは思えない。11年のカダフィ政権崩壊以降、いわば「はぐれ将軍」のような立場から国際社会で一目置かれる有力政治家へと変身してきた男が、また武闘路線へと回帰してしまった。

だが戦況は思わしくない。4日の宣言から数日の間にLNA兵145人と車両60台が西部政府の民兵勢力に捕らえられた。待ち伏せ攻撃を受けて敗走したLNAの部隊もある。

国際社会でも四方八方から非難の声が上がっている。これでハフタルも思い知るだろう。諸外国が彼を支持してきたのは、彼が戦闘に固執せずに支配地を広げてきたからなのだ。

トリポリへの進軍に伴うリスクは十分に承知していたはずだ。内戦開始以来、東部のデルナとベンガジでイスラム過激派と熾烈な市街戦を何年も続けてきた。昨年までに奪還したが、人的・経済的な損失はあまりに大きかった。

だから今回の進軍宣言も口先だけで、ひとまずトリポリは包囲するが流血の事態は避けるつもりだったのかもしれない。しかし、それだけでも国際社会や国内の有力部族から見放される恐れがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る EV駆け込

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中