最新記事

インタビュー

「移民は敵ではない、ブラック労働に苦しむ日本人が手を繋ぐべき相手だ」

2019年4月18日(木)13時30分
小暮聡子(本誌記者)

――手を繋いだほうがいいこととは、具体的には何がある?

日本人の労働者がサービス残業でブラック労働させられている話と、外国人のアルバイトや技能実習生がひどい状況にあるというのは、制度的な局面や状況の重さではひとりひとり違うと思うのだが、極めて近い問題だと思う。要は、そこから逃げられなくなっている。

日本人は技能実習生と同じように(主に来日するための資金として)100万円の借金を背負ってはいないかもしれないけど、せっかく雇ってくれたこの企業からクビにされたら自分はどうなるのだろうという不安から辞められないこともあると思う。それは、転職を禁じられている技能実習生が逃げたくても逃げられない状況にあるのと、精神的にはもしかしたらすごく近いのかもしれないし、構造的には極めて似通っていると思う。

そうしたときに、同じように厳しい状況にある人たち同士が対立するのではなくて、労働者としての権利をしっかり高めていこうという仲間として見られたほうが絶対にいい。それに、国全体でみるとお金持ちや資本家というのは割合としては極めて少ないわけで、ほとんどは「労働者」だ。

一般的な中間層より下の人たちの中に多くの外国人もいるし、多くの日本人もいる。なので、日本の「内と外」のように考えるフレームではなくて、やっぱりもっと日本の中の「上と下」というか、たくさんの貯金や資産があったりなどの後ろ盾がない普通で一般の人たちと、後ろ盾がある人たちと、その間で考えるべきだと思う。そこに、国籍の関係は基本的にはないと思っている。

もちろん、外国人であるがゆえの特別なケアというのは必要で、言葉の面などは特にそうだろう。数としては多いが女性であるとか、LGBTであるとか障害があるとか、マイノリティーだったりマージナル(周縁化)にされがちな要素を持っている人はいる。それぞれにスペシャルなケアがあったほうがいいということはもちろんそうで、でもそれと同時に、それぞれの特別さを認めながら手を繋ぐ必要がある。

先ほどの「移民」という言葉を使うか使わないかにも大きく関係することだが、つまりは、特別でもあり、ただ同時に同じでもあるということ。その特別さというのはそれぞれが違うものを持っているということであって、それをお互いに認識し合った上で、大事なのは手を繋ぐということではないか。少なくとも、そこにくさびを打たせないことがすごく重要だと思っている。

世の中には、外国人が増えると治安が悪化する、と報道するメディアもある。SNSでのつぶやきも含めて時に嘘が入っている情報もたくさんあって、実際にいっぱい読まれているし、本屋にもたくさん売っていて、そういう情報に接している人は多いと思う。

そのときに、ちょっと違うのかなと思ってもらえるといいなと思う。間違った情報も流れているなかで、この本にはできるだけファクトというかデータを多く載せて、ただの物語でしょうと思われないように書いたつもりだ。

――望月さんは、どうしてそういう想像力を働かせることができるのか。そもそも、なぜ移民の問題に取り組もうと思ったのか。東京大学大学院でミシェル・フーコーの自由主義論を研究し、経済産業省からグーグルなどを経て、たどり着いたのが日本の「移民」事情を発信するウェブマガジンの編集長。きっかけとして何か、自分の「移民性」のようなものを感じるなどの原体験があったのか。

「あった」って言えれば、格好いいんですけどね。「かつて......」、みたいな。あんまりないんですよね、僕それ。本当にない。実際のところ、いつもそこの語りを求められることに難しさを感じている。......いや、ないです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

比大統領「犯罪計画見過ごせず」、当局が脅迫で副大統

ビジネス

トランプ氏、ガス輸出・石油掘削促進 就任直後に発表

ビジネス

トタルエナジーズがアダニとの事業停止、「米捜査知ら

ワールド

ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中