インドの巧妙なキリスト教弾圧
India's Endangered Churches
一方、BJPのイデオロギー的な母体で、同党の大衆運動を実質的に指揮しているのが民族義勇団(RSS)だ。アメリカのCIAはバジュラン・ダルを宗教的武装集団、RSSを民族主義団体と位置付けている。
プーガルの教会に押し入った「ヒンドゥー戦線」は1980年に結成され、ヒンドゥーの伝統を守ることを活動目的に掲げている。この組織は日頃から、キリスト教は欧米人の信仰だからインド人には向かないし、牧師は現金を渡して貧困層を改宗させていると非難している。
1年前の襲撃の際には他の集落からやって来た人も含まれていた。おそらくはヒンドゥー戦線の指導者に会えると誘われたか、あるいは日当をもらって参加したのだろうと、プーガルは言う。彼の弁護士N・スレシュは、政治的優位に立つために彼らが取る戦略は「無知な地元民にキリスト教徒との対立をあおり、教会を襲わせる」ことだと説明した。
プーガルの教会に来る信者の大半はカースト制度の最底辺を占める「不可触民」だ。それでもキリスト教徒に改宗すれば、地域社会で以前よりましな地位を獲得できる場合もある。逆に、もっとひどい差別を受ける場合もある。プーガルによれば、自身の教会に来る不可触民はみんな親の代からの信者だ。
憲法の保障は骨抜きに
インド憲法は信仰の自由を約束し、「社会秩序と道徳、健全さを保つことを条件に自由に信仰を持ち、実践し、広める権利」を認めている。だが現実にはこの条件がネックとなり、信仰の自由は骨抜きにされている。
例えば多くの州には改宗規制の州法があり、改宗の30日前に当局に申請しなければならない場合もある。また自身の宗教を公文書に記録されることも多い。しかも宗教次第で税控除や銀行融資、結婚に関することまで、法的な扱いが異なる。もちろん、優遇されるのはヒンドゥー教徒やシーク教徒だ。
最も腹立たしいのは警察の共謀だと、キリスト教徒の宗教的自由を守る国際NPO自由防衛同盟(ADF)代表のネヘミア・クリスティは言う。「ヒンドゥー至上主義の過激派は組織的に祈りの場を攻撃している。しかも警察とぐるだ」
「警察は被害者に『許可を取っていないならおまえを訴える』などと脅す一方、キリスト教徒を攻撃した人間は逮捕しようとしない。これはおかしい」
昨年1月にはタミルナド州の人里離れた教会に住む牧師が首をつった死体で発見された。その1週間前、牧師は地元警察に、ヒンドゥー教徒の男性数人が彼の教会を侮辱しているとの苦情を申し立てていた。
ウッタルプラデシュ州ではクリスマスイブに、キリスト教徒42人が「平和を乱した」という理由で逮捕され、クリスマスが終わるまで拘束された。