最新記事

テクノロジー

ロボットとセックスする新時代の大問題

2019年4月3日(水)18時00分
フランシス・シェン(ミネソタ大学法学大学院准教授)

マー(右)が製作した「マーク1」(中央)はあらゆるタスクの手助けが目的とか Bobby Yip-REUTERS

<「セックスボット」と性交渉をする日は間近、安全性やセキュリティー保護は大丈夫なのか>

ロボットはもう当たり前の存在になった。次は「セックスボット」の番なのか――。

今や多くの企業が、親密な交流や性的快楽の提供を目的とするロボットを開発中。いくつかは既に商品化されている。

恥ずべきものとされたセックストイやセックスドールと違って、セックスボットと呼ばれるロボットのセックスパートナーは主流になる可能性がある。17年のアメリカの調査では、回答者の半数近くが50年後にはロボットとの性行為が普通になると考えていた。

だが、そもそもセックスボットの普遍的な定義は存在しない。その管理(または禁止)を提案するに当たっては、実はこの点が大問題になる。

主な用途を考えれば、セックストイの法的定義を当てはめたくもなる。全米で唯一、現在もセックストイの販売が違法なアラバマ州では、禁止対象を「人間の性器の刺激を主要な目的とする」器具と定義している。

だが、それも問題だ。セックスボットが提供するのは、もはやセックスにとどまらない。いずれは自己学習アルゴリズムを活用して、人間と感情的な関わりも持つようになるだろう。

いい例が香港で生まれた「マーク1」。セックスボットと呼ばれるが、子供の食事の用意から高齢者の付き添いまで、あらゆるタスクを手助けできるロボットを目指していると、製作者のリッキー・マーは言う。

性的情報をハッキング?

だが昼間は「子供の遊び相手」に、夜は「大人の遊び相手」になるロボットを、どう管理したらいいのだろう。

アラバマ州でのセックストイ販売禁止はこれまで法的に支持されているが、この種の法律はいずれ無効になりかねない。セックスボットを大規模な販売禁止措置の対象にすることは不可能だろう。

ただし、子供型セックスボットの場合は恐らく別だ。アメリカでは17年12月、超党派の下院議員が「リアルかつ搾取的な小児性愛的電子ロボット規制法案」を提出。18年6月に全会一致で可決された。

子供型セックスボットの開発に現実の子供の関与は必要ない。それでも存在自体が極めて有害な影響を及ぼすとも考えられるため、各州政府は対策を迫られるはずだ。

セックスボットは将来的に感覚まで備えるようになるだろう。だが、現時点では製品だ。そうである以上、米消費者製品安全委員会の規制の在り方を問う必要もある。

セックスボットには安全性への懸念が潜む。唇用の塗料に有害物質が含まれていたら? 人間の何倍もの力を持つロボットが「情熱」を込めて手を握り、指の骨を砕いてしまったら?

セキュリティー面も心配だ。セックスボットは相手の好みを学習し、膨大な量の性的情報を保存・処理することになるだろう。こうしたデータを保護する枠組みはあるのか。ロボットがハッキングされたり、性犯罪者の監視装置として当局に利用される恐れはないのか。

これらの不安は臆測でしかない。セックスボットの導入が個人と社会に与える影響について、確かなことはまだ分からない。

普及が進まない限り、実証研究は難しい。だが規制などをめぐって、政治家が確かな情報に基づいて判断を下すには、疑問と早急に向き合う必要がある。

そう遠くない昔、同性への恋愛感情は恥とされた。テクノロジーと親密な関係を結ぶ「デジセクシュアル」の人々は今、かつての同性愛者と似た状況にある。いずれ彼らがマシンとの愛を堂々と口にする日が来るのか。

答えは誰にも分からないが、セックスボットが普通に売られる日は近い。そのときに備えることが大切だ。

The Conversation

Francis X. Shen, Associate Professor of Law, University of Minnesota

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2019年04月02日号掲載>

20190402cover-200.jpg

※4月2日号(3月26日発売)は「英国の悪夢」特集。EU離脱延期でも希望は見えず......。ハードブレグジット(合意なき離脱)がもたらす経済的損失は予測をはるかに超える。果たしてその規模は? そしてイギリス大迷走の本当の戦犯とは?

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中