最新記事

日本社会

忘れるな! 4月施行の「高プロ制度」が日本の格差を拡大させる

2019年4月11日(木)17時00分
松野 弘(社会学者・現代社会総合研究所所長)

NanoStockk-iStock.

<昨年成立した高度プロフェッショナル制度を覚えているだろうか。ワーキングプア問題は解決の糸口もないまま、悪法がまた1つ増えた>

突っ込んだ議論をまたずに、働き方改革関連法案の一環として「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」は昨年成立した。忘れている人もいるかもしれないが、この4月からの施行である。格差の拡大、ワーキングプアの増大を招く懸念はぬぐえない。

人間が生きていくためには、精神的欲求(精神の安定性)と物質的欲求(生活の安定性)の両方を充足させることが必要だ。人間が働くのは「物質的欲求」、すなわち、食べていくためである。それも自分自身だけではなく、家族のためにでもある。

適切な労働によって適切な賃金をもらっているならば、贅沢をしなくても、普通の暮らしはできる。組織(企業等)から給料をもらって働いている、いわゆるサラリーマン層が一番多いのは、経済的に安定しているからである。

改めて振り返る、日本でワーキングプアが生まれた理由

しかしながら、日本では小泉内閣(2001~06年)の「聖域なき構造改革」という新自由主義的な改革によって、雇用政策に規制緩和(改正労働者派遣法)が取り入られた。これにより、それまで正規社員が中心であった企業に非正規社員が急増し、非正規社員が企業の収益確保のための緩衝材になってしまった。

この結果、年収200万円以下という低所得の「ワーキングプア」労働者となる若者が急増した。つまり、いくら一生懸命働いても、生活ができない非正規社員(派遣社員・契約社員等)が社会に溢れ出したわけである。

2019年の総務省の労働力調査によると、日本の正規雇用者(職員・従業員)は3486万人なのに対して、非正規雇用者は2157万人で、被雇用者全体のうちの非正規雇用者の割合は38.2%である。これは、2002年には29.4%だったものが年々増加し、2014年以降は横ばいで推移している。

当初は若者の非正規雇用者が中心であったが、最近では、企業定年後の高齢の非正規雇用者が増加しているようである。この背景には、定年が60歳で年金支給開始年齢が65歳というギャップと、現状の年金額(平均的サラリーマンの場合には、夫婦2人で月約23万円〔厚生年金〕、自営業者の場合には、月約11万円程度〔国民年金〕)の低さがあげられる。

正規雇用者でもこのように、定年後は経済的に苦しい生活を強いられる人が増え続けている。非正規雇用者の場合にはさらに、低額で悲惨な状態だ。日本の社会保障政策の「貧困さ」を示しているといえるだろう。

それはともかく、経済的に豊かな社会であるはずの日本で、現代の貧困層とされる「ワーキングプア」が誕生したのはなぜだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中