野生動物を「大絶滅」から救う初の世界地図
Where the World’s Wildlife Can Take Refuge
人間の活動が野生動物を絶滅に追いやる johan63/iStock
<絶滅の危険がある「ホットスポット」と動物の避難所になる「クールスポット」を色分けできれば、戦略的に保護活動を進めることができる>
野生動物を死に追いやる最大の要因は、世界中どこでも狩猟と密猟、それに農地開拓や道路建設などによる生息地の喪失だ。多くの種類の生き物が一度に絶滅する「大絶滅」の危機を招いているのが、この2大要因であることは疑う余地がない。
しかし、同じ動物でも生息地ごとにどの程度絶滅の危険にさらされているかは、これまでほとんど知られてこなかった。そのために、エリアごとに的を絞った保護活動はなかなかできずにきた。
我々は学術誌「Plos Biology」に発表したばかりの論文で、狩猟や伐採など最も深刻な15項目の人為的脅威が、絶滅のおそれがある世界中の5457種の哺乳類、鳥類、両生類の生息地に、実際どのくらいの危険をもたらしているかを調べた。
その結果、5457種のざっと4分の1に当たる1237種は生息域全体の90%超が絶滅の脅威にさらされていることが分かった。そのなかにはライオン、ゾウなど多くの大型哺乳類も含まれる。最も懸念されるのは、生息域の全域が深刻な脅威にさらされている動物が395種にも上ることだ。
予測不可能な脅威も
次に我々は、個々の動物種の生息域ごとに、その動物の生存を脅かす要因をマッピングした。例えば、アフリカのライオンは都市化と狩猟と密猟に脅かされているため、ライオンの生息域の中ではそれらの脅威の強弱を示した。
すると、特定の動物の生息域のうち、深刻な脅威があるエリアと、人為的な脅威が少なく、動物たちの避難所になり得るエリアが浮かび上がった。
そこで、動物が人為的な脅威にさらされている「ホットスポット」と、おおむね脅威がない「クールスポット」を世界地図上で色分けした。
多くの野生動物が生息域のほぼ全域で脅威にさらされているという事実は、重大な懸念材料だ。これらの動物はどんどん数が減り、人間が侵入したエリアから完全に姿を消すだろう。逃げ場がなければ絶滅は時間の問題であり、重点地域に的を絞った保護活動が急務だ。
一方、人為的な脅威にまったくさらされていない1000種超の動物も確認できた。これは明るいニュースだが、単純には喜べない。たとえば両生類の主要な脅威である感染症の影響は考慮に入れていないし、すべての動物に影響を及ぼす気候変動も同様だ。
10年でトラが倍増した例も
以下に示すのは、動物ごとの生息域と人為的脅威度を合わせて作成した初めての世界地図だ。その結果、世界で最も人為的な大絶滅が迫るホットスポットは東南アジアだった。マレーシア、ブルネイ、シンガポール、インドネシア、ミャンマーの5カ国ではとくに人為的脅威が深刻だ。
豊かなマングローブの林や熱帯林など、地球上でも最も生物多様性に富んだ生態系が人間活動のために失われつつあるからだ。
■「ホットスポット」マップ(脅威にさらされている種の数で色分け)
野生動物の生息域のうち人為的脅威がないエリアを重ね合わせて、クールスポットの世界地図も作成した。これらのエリアは野生動物にとって地球上に残された最後の楽園であり、銃や罠、ブルドーザーに脅かされる動物たちが逃げ込めるシェルターとして、保護活動の重要な拠点となる。
クールスポットには、アマゾンの熱帯雨林、アンデス山脈、ヒマラヤ東部、西アフリカのリベリアの森林などの一部が含まれる。
■「クールスポット」マップ(脅威にさらされていない種の数で色分け)
希望はある。私たちが挙げた人為的脅威はすべて、規制を導入することで取り除けるものばかりだ。だがそのためには財政的政治的な支援が不可欠だし、優先エリアに集中的に資源を投入する必要もある。
まずは、保護区を設置するなどして、脅威にさらされた動物が逃げ込める安全地帯を確保することだ。
ほとんど、あるいはまったく逃げ場がない動物を救うには、「積極的な脅威コントロール」が必要になる。これはパトロールの徹底などを通じて、既存の生息地からできるかぎり脅威を取り除くやり方で、成功例もある。ネパールでは2009年以降、おもに重点地域を絞り込んだ密猟対策により、トラの生息数が倍増した。
密猟対策と生息地の保全は、相互に補完的な保護活動であり、並行して進めれば大きな成果が上がる。私たちの調査はこうした活動のため、また国や国際機関が有効な保護計画を立案するために役立つはずだ。
The authors acknowledge the contributions of Hugh Possingham, Oscar Venter, Moreno Di Marco and Scott Consaul Atkinson to the research on which this article is based.
James Allan, Postdoctoral research fellow, School of Biological Sciences, The University of Queensland; Christopher O'Bryan, PhD Candidate, School of Earth and Environmental Sciences, The University of Queensland, and James Watson, Professor, The University of Queensland
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.