最新記事

超音速

これが超音速機からの衝撃波をとらえた画像だ

2019年3月8日(金)19時15分
松岡由希子

NASA

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、2019年3月6日、アメリカ空軍の超音速練習機「T-38」2機からの衝撃波を鮮明にとらえた画像を公開した。

高度3万フィートで超音速で通過する「T-38」を待ち構えた

NASAの航空機部門(ARMD)で10年以上かけて開発された空対空撮影の新技術により、米カリフォルニア州エドワーズ空軍基地内のNASAアームストロング飛行研究センターで実施された飛行実験において撮影されたものだ。

f4_p3_rgb_planedrop.jpgNASA

この飛行実験では、この新技術を採用した最新のカメラシステムをNASAのサポート航空機「B-200キング・エア」に搭載し、高度3万フィート(約9.14キロメートル)で飛行させて、2000フィート(約610メートル)下を超音速で通過する「T-38」2機を待ち構えた。

f3_p3_knife_plane_drop_dy_2-22.jpgNASA

このカメラシステムは、より広角で、1秒あたり1400フレーム毎秒のフレームレート(fps)で撮影でき、従来に比べて3倍のデータ量を取得できるのが特徴だ。2機の「T-38」は約30フィート(約9.1メートル)離れ、後続機は先行機の10フィート下を飛行し、「B-200キング・エア」のカメラシステムがその様子を3秒間にわたって記録した。

NASAエイムズ研究センターのジェームズ・ハイネック研究員は、撮影された画像について「これほど鮮明で美しいものとは夢にも思わなかった」と驚き、「最新のカメラシステムによって、画像の質とスピードを格段に向上できた」とその成果を強調している。

画像では「T-38」2機からの衝撃波が相互に作用し合う様子も確認できる。エイムズ研究センターのニール・スミス研究員は、とりわけ興味深い点として「後続機の衝撃波が相互作用で曲がっている」ことを挙げ、「後続機は先行機の後を追って飛行するため、その衝撃波も異なる形状になるのだろう。この画像は、衝撃波がどのように作用し合っているのかを解明するのに役立つ」と述べている。

騒音を抑えた超音速機X-59 QueSSTの開発

一般に、航空機が飛行する際、前方の空気が押されて波を生じるが、「T-38」のように音速を超える速度で飛行すると、空気がスピードに追いつけずに圧縮し始め、衝撃波と呼ばれる特有の波が生成される。この衝撃波は人間の目には見えないが、大気中に伝わりながら結合し、ソニックブームと呼ばれる大音響が生じる。ソニックブームは、人間や動植物、地上施設などに被害を及ぼす可能性があることから、これまで陸地上空での超音速飛行は厳しく制限されてきた。

NASAでは、2022年末までの飛行開始を目指し、騒音を抑えた超音速機「X-59 QueSST」の開発に取り組んでおり、この新たな空対空撮影の技術は、「X-59 QueSST」の実用化に向けたデータ取得などにおいても活用される見込みだ。

low-boom2.jpgX-59 QueSST - NASA

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中