グーグルよ、「邪悪」になれるのか?――米中AI武器利用の狭間で
中国のメディアは、それに先んじた1月14日に「グーグル(谷歌)によってAIプロジェクトの梯子を外され怒り狂った米国防部が、シリコンバレーでAI人材を探し回っている」というタイトルで、すでに米当局の動きを予見する報道を大きく拡散させている。
彷徨うグーグルの理念「邪悪になるな」
一方、グーグルは、こっそりとAIの軍事利用計画のために大量のクラウドワーカーを雇用していたことが、今年2月5日に明らかになった。The Interceptが、「グーグルはギグ・エコノミー・ワーカーを、異論のあるProject Mavenのために雇用していた」で明らかにした(この報道のタイトルは、筆者が最初にアクセスしてからだけでも、3回にわたって修正されているため、アクセスした時点でのタイトルは、又もや微妙に異なっているかもしれない)。
「ギグ・エコノミー」とは、ネットを通して単発の仕事を受注する働き方で、「ギグ・ワーカー」は1時間あたり1ドル(時間給110円!)にも満たない低賃金の頭脳労働者として使い捨てにされている。このようなことをしている時点で、既にかなり「邪悪」ではないのか。
2006年から2010年にかけて、グーグルは中国市場に本格参入していたが、中国政府の検閲に従うことを嫌い、「邪悪になるな」という魂を重んじて、中国市場を去った。
あの頃のグーグルは美しかった。
中国の若者はそのグーグルに民主への熱い思いを込めて涙し、別れを惜しんだものだ。
あのグーグルはどこへ行ったのか?
AIの軍事利用という新たな局面に遭い「邪悪になるな」という魂が彷徨っている。
詳細に追いかけてみると、「グーグルAI中国センター」もまたネット上のみで働くギグ・ワーカーを曖昧模糊とした形で募集している痕跡があり、なにやら煮え切らない怪しさが漂っている。AIの軍事利用とは決別してもビジネスチャンスは逃したくないという迷いが、さらなる不透明感を醸し出しているように思う。
なお、中国を去るグーグルに対する2010年における中国の若者の切なる思いは、拙著『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(2011年)で執拗に追いかけた。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。