最新記事

中国

グーグルよ、「邪悪」になれるのか?――米中AI武器利用の狭間で

2019年3月25日(月)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

「グーグルAI中国センター」が設立された頃には、李飛飛は、「グーグルの女神」として中国の若者に称賛されるようになっていた。というのは、彼女は2017年3月8日、グーグルの「Cloud Next 17 大会」でメインスピーカーとして講演したのだが、そのテーマが「Democratizing AI(AIの民主化)」で、その全文が中国語に翻訳されて動画とともに中国のネットに掲載されたからだろう。「計算の民主化」「データの民主化」「アルゴリズム(計算処理の仕方)の民主化」などは、中国の若者の心をつかんだ。「AIは全人類の幸福のために使われなければならない」と李飛飛はスピーチで強調している。

ところが、若者までが熱い視線を送っていたこの「グーグルAI中国センター」は、あっという間に揺らぎ始めたのである。

なんと、1年も経たない2018年9月11日に、李飛飛はグーグルを離職してしまったのだ。スタンフォード大学における教育研究に専念することになったという。

李飛飛の後継にはグーグル・クラウドのAI研究開発部門を主管する李佳(Jia Li、リー・ジャー)という女性が就いたが、李佳もまた2カ月後の2018年11月にグーグルを去ってしまった。

揺らぐグーグル

目まぐるしい人事異動は、グーグルの中心が揺れ動いていると、人々の目には映った。

それは中国の市場に再参入するのか否かというビジネス展開の場においても「揺らぎ」を招いている。

たとえば、2018年12月11日、グーグルの現在のサンダー・ピチャイCEOは米下院司法委員会で、「現時点では中国における検索事業に乗り出す計画はない」と証言した。というのも、同年8月、グーグルが中国向けの「ドラゴンフライ」と呼ばれる検索エンジンの開発を進めているという報道が、国内外で広く報道されていたからだ。

それに対してアメリカのペンス副大統領は、同年10月4日にハドソン研究所で演説し、「ドラゴンフライの開発を即座にやめるべきだ」と、グーグルの対中接近路線を批難している。それもあって、ピチャイは中国市場に再参入するつもりはないと証言したのだろうが、それならなぜ冒頭に書いたようなグーグルに対する警告が、今年3月になって発せられたのだろうか。

AIの軍事利用とグーグルの「AI原則」

実はグーグルがかつて米・国防総省と結んだ計画 "Project Maven" には、画像や動画分析のためのAIアルゴリズム開発が含まれている。戦場における画像や動画をAIに学習させて、攻撃するターゲットの正確度や状況判断の迅速性などを高める効果をもたらす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、国産長距離ミサイルでロシア領内攻撃 成

ビジネス

香港GDP、第3四半期改定+3.8%を確認 25年

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、4人死亡・数

ビジネス

インタビュー:26年春闘、昨年より下向きで臨む選択
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中