最新記事

フランス

仏領ギアナ、ロケット打ち上げの下で貧困は続く

Fired Up

2019年2月12日(火)16時40分
キャサリン・ハイネット

17年10月に宇宙センターを訪れたマクロン(中央でサインしている人物) Ronan Lietar-REUTERS

<南米のフランス海外県は宇宙センターばかりが栄えて地元の人たちの暮らしは一向に改善しないまま>

ロケットが熱帯の太陽を浴びて、次のミッションを待っている。その周囲では、倉庫や貨物線路や燃料タンクの間をジャガーやヘビやトカゲがすばしっこく走り回る。

ここは、南米大陸の北部に位置するフランスの海外県、仏領ギアナ。EU本部があるベルギーの首都ブリュッセルほどの広さの敷地を占める「ギアナ宇宙センター」は、アメリカのケネディ宇宙センター(フロリダ州)に次いで世界で2番目に活況を呈しているロケット発射基地だ。

赤道に近いギアナは、気象衛星や通信衛星の打ち上げに理想的だ。昨年10月には、日欧共同の水星探査計画のための、2機の探査機を打ち上げた。21年には、NASAのハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げも予定されている。

フランス政府が世界に誇る施設と言っていいだろう。だがこの海外県で貧しい生活を送る人たちにとって、輝かしい宇宙センターは途方もない経済格差の象徴にほかならない。

なにしろ、仏領ギアナでは住民の約5人に1人が失業状態にある。この割合はフランス本土と比べて約2倍だ。麻薬取引などの犯罪も蔓延し、インフラ整備も遅れている。人類学者のイザベル・イデールクリブスキによれば、清潔な水を直接利用できない人は約4万6000人に上る。

こうした状況に抗議して、17年春には大規模なデモが発生した。宇宙センターでもデモ隊が道路を封鎖し、人工衛星の打ち上げを妨害した。

仏領ギアナ全体で1カ月続いたデモとストライキにより、学校が閉鎖され、海運と航空輸送が停止した。この事態を受けてフランス政府が話し合いに応じ、インフラ、警察、医療・保健への投資を増やすことに同意する文書に署名した。

それから1年半余り。抗議運動のリーダーたちによれば、フランス政府は約束の一部しか履行していない。

緊急の治安対策はまだしも、学校の建設や清潔な飲み水の供給など中・長期的なプロジェクトは、政府のデータによってもまだ38%しか完了していないのだ。「何も変わっていない」と、17年の抗議運動を推進した労働組合リーダーのダビー・リマネは言う。

人種と階層による分断

リマネに言わせれば、エマニュエル・マクロン仏大統領の政権は傲慢で、不誠実で、あまりにギアナの人々を見下している。マクロンは17年10月に仏領ギアナを訪れたとき、住民が過大な期待を抱かないようにクギを刺す目的で、「私はサンタクロースではない。ギアナの人々は子供ではないのだから」と述べたこともある(フランス政府報道局と大統領府は本誌の取材要請に返答していない)。

フランス本土と仏領ギアナの関係は悪化するばかりだ。不信の根は、フランスによる植民地政策の歴史にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、航空便の混乱悪化を警告 政府閉鎖長期化で

ワールド

トランプ氏、サンフランシスコへの州兵派遣計画を中止

ワールド

トランプ氏、習主席と30日に韓国で会談=ホワイトハ

ワールド

ガザ地表の不発弾除去、20─30年かかる見通し=援
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中