最新記事

軍事

米中「新冷戦」はもう始まっている

A NEW COLD WAR HAS BEGUN

2019年2月7日(木)17時15分
ロバート・カプラン(地政学専門ジャーナリスト)

その異様な空気に、アメリカの2大政党は拒否感を覚え始めた。なにしろイスラム教徒のウイグル人を100万人も収容所送りにするような政権だ。米中両国の体制を支える思想は、かつてのアメリカ民主主義とソ連共産主義と同じくらい懸け離れている。

IT技術は米中両国の対立解消に役立たず、むしろ対立を助長する。クリック1つで国境を越える「インテグレーション戦争」が史上初めて可能になった。どちらの国も相手国の商業・軍事ネットワークに侵入できる。

大局的に見ると、数十年に及ぶ疑似資本主義の下での経済発展があったからこそ、中国は高度な戦力とサイバー軍拡競争に注ぐ富を蓄積できた。実際、(中国に限らず)新時代の戦争は経済的な繁栄があったからこそ可能になったのだ。今後、血みどろの戦いが起きる可能性はまだ五分五分よりも低いだろうが、次第に高まってきてはいる。

その行方を決めるのは単なる「トゥキディデスの罠」(覇権国家が新興国家の台頭を恐れて戦争に突き進むという見方)ではない。台湾問題などに関して中国がどれだけ感情的になるか、そして海空での偶発的な事故・事件がどれほど簡単に手に負えない状況に発展するかに懸かっている。貿易摩擦が激化すればするほど、南シナ海で米中の軍艦同士が接近し、あわやという事態に陥りやすくなるだろう。

歴史が示すように、多くの戦争は誰も望まないのに始まっている。ひとたび南シナ海や東シナ海で戦争が勃発すれば、国際金融システムはイラクやシリア、リビア、イエメンの内戦の場合とは比較にならないほど大きな打撃を受けることになるだろう。

かつての冷戦が熱くならずに済んだのは、核戦争への恐怖心があったからだ。だが、このストッパーは新冷戦では働かない。核兵器の使用や大気圏内での核実験の記憶は薄れつつあり、両国の為政者たちは半世紀前の先人たちほどには核兵器を恐れていない。低出力・低破壊力の小型戦術核兵器の登場で、なおさら抵抗がなくなった。

その上、精密誘導兵器が開発され、大規模なサイバー攻撃も可能となり、通常兵器でも十分に戦える。かつての冷戦時代よりも、大国間の戦争勃発のリスクは高まったと言える。

日本との衝突で負ける可能性

ただ懸念すべきは、中国の台頭よりも凋落のほうだ。新たな要求や欲求を持つ中間層が拡大した中国で、経済が失速したら今後10年以内に社会的・政治的な緊張が高まる恐れがある。ハーバード大学の政治学者サミュエル・ハンチントンは1968年に発表した『変革期社会の政治秩序』で、中間層の拡大に伴って不安定化する政治情勢について論じた。そうであれば中国の指導者たちは、国民を動員する手段としてナショナリズムを今よりも露骨に利用するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中