最新記事

遺伝子最前線

デザイナーベビー誕生を防ぐ、ガイドラインは存在しない

A GOVERNMENT ETHICS NIGHTMARE

2019年1月25日(金)16時00分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

治療と「それ以外」の境界は

深刻な遺伝病予防のためであれ、単に褐色の目を青くするためであれ、クリスパー技術は基本的にはまだ臨床レベルに用いる段階にはない。それでも、遺伝学の専門家がこうした目標に取り組んでいるのは事実であり、大きな潜在能力を秘めたこの技術を規制する科学界の対応は立ち遅れが目立つ。

今のところ、クリスパーの使用に関するガイドラインは最小限のものにとどまっている。

「技術の進歩は洗練された新しいゲノム編集の手法を生み出したが、強い反対意見も残っている」と、NIHは15年の声明で強調した。「(反対派の懸念には)重大かつ数値化できない安全性の問題、次世代に影響を与える形で生殖細胞を改変することの倫理的問題、胚へのクリスパー・キャスナイン使用を正当化できる有望な応用分野がまだないことなどがある」

だがNIHがヒト胚を改変するクリスパー研究を支持しないからといって、その研究がアメリカで禁止されているわけではない。研究者の下には民間の資金や寄付が集まっている。オレゴン健康科学大学のチームもそうした資金を利用して実験を行ったのではないかと、カプランは考えている。

幅広い研究・医療分野のガイドラインを提示する2つの主要な学術機関、米国科学アカデミー(NAS)と全米医学アカデミーは17年2月、クリスパー技術の使用に関する包括的な勧告を発表した。「ヒトゲノム編集――科学、倫理、管理」と題した報告書の中で、専門家委員会は新しい治療法の開発は技術の適切な活用だと評価。深刻な疾患や障害を予防するための臨床試験でのクリスパー研究と、この技術の影響をもっと深く理解するための基礎的研究に賛同している。

報告書の筆者らは、病気や障害の治療と予防以外の目的でのヒトゲノム編集には注意を喚起している。だが、治療とそれ以外の美容などとの境界は必ずしも明確ではないと、カプランは指摘する。そして1つの遺伝子が無数の病気や形質の原因になることを考えれば、クリスパー技術の「倫理的」使用を守ることは今後ますます困難になるだろうと予測する。「DNAの改変が予想外の結果を招く可能性もある」

カプランはオレゴンや中国の例をきっかけに、民間資金で研究を行う科学者の登録制度などの具体策も含め、クリスパーを用いた実験の倫理的側面に関する議論が深まることを期待している。「こうした行為に対する処罰は刑務所行きか、罰金か? それを話し合う国際会議を開催する必要がある」

<本誌2019年01月22日号掲載>

※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

ニューズウィーク日本版 イラン革命防衛隊
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月24号(3月17日発売)は「イラン革命防衛隊」特集。イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 原油高受けたインフレ圧力

ワールド

トランプ氏訪中、中国が延期で合意 早期に再調整=ホ

ワールド

NATO、ホルムズ海峡再開を協議 ルッテ事務総長「

ワールド

IAEA、イラン中部の新ウラン濃縮施設の状況把握せ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポリ」が中東へ
  • 4
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 9
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中