最新記事

イスラム教

フィリピン南部にイスラム教徒の自治政府が誕生? 住民投票実施したドゥテルテの狙いとは

2019年1月22日(火)17時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

モロイスラム解放戦線のアル・ハジ・ムラド・イブラヒム議長も住民投票に参加 Marconi Navales - REUTERS

<2017年、イスラム武装組織と国軍が激しい市街戦を繰り広げたミンダナオ島。その一部地域でイスラム教徒による自治政府参加を問う住民投票が行われた>

フィリピンの南部ミンダナオ島の自治地域とその周辺地域でイスラム教徒による自治を認めた「バンサモロ基本法」に基づき、自治地域加入の是非を問う住民投票が1月21日に行われた。投票結果が確定するには数日かかる見通しとなっている。

住民投票が実施されたのは同島西部にあるムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)に所属するバシラン州などとその周辺のコタバロ市、北ラナオ州、コタバト州、スルタン・クダラット州などで有権者は約284万人。投票では「バンサモロ基本法」に基づくイスラム自治政府に各地域が参加するかどうかの是非を問うている。

フィリピンは人口の約93%がキリスト教徒でそのうち83%がカトリック信者というキリスト教徒が多数派の国であるが、イスラム教徒も全人口の約5%存在し、南部ミンダナオ島などではイスラム教徒は人口の20%を超えている。イスラム教徒は長年中央政府に対し独立と自治を求めて武装闘争を含めた抵抗運動を続けてきた歴史があり、何度となく和平交渉がもたれたが、恒久的な和平の完全実現には至っていない。

今回の投票結果で過半数が賛成した自治体はイスラム自治政府に編入されることになり、和平実現に向けた大きな一歩となるとみられている。

2018年7月に成立した「バンサモロ基本法」によれば、自治政府には高度な自治が認められ、予算の立案、執行権が付与されるほか、地域内のイスラム教徒にはイスラム法に基づく司法制度も適用されることになる。

このため今回の住民投票によって、武装闘争を続けている「モロイスラム解放戦線(MILF)」などイスラム武装組織との間で紛争解決、和平実現に向けた具体的な動きが加速するものと期待されている。


住民投票の様子を伝える現地メディア ABS-CBN News / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず

ビジネス

ビットコイン9万ドル割れ、リスク志向後退 機関投資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中